美の特攻隊

てのひら小説

さざなみ

目覚めは自在だった。

深くもなく浅くもない川辺の流れに浮かび過ぎ去る一枚の落ち葉のように。

水流は清く感じられ、少なくとも悪意をはらむ水質ではないという奇妙な感覚が、それこそ一葉に似た軽さで想起される。


所詮、眠りたい時に布団にもぐり、必要加減により起床するという、一般社会の目覚めからは十二分に距離をとって、時間との連動を忘れ去ろうと努めただけの事であったけど。
秋の暖かな日差しが窓際から床に差し込む。

昼と夜を儀式的に裁断するカーテンの存在は、本来の役目から暇をもらってとまどう管理職者の姿のように自分にとってはあまり興味のない有様だ。

 
閉め切った窓の外からは、ふんだんな音色が奏でられている。

ただし、心持ちでよいから笑みの波紋の残像を顔面に浮き彫りにさせる事が条件で、聴覚という器官にオトが共鳴すればであるが。

目覚めは自由であっても寝起きからの時間の走行は、制御不能と言える。

それはそうだろう、ベッドの上で日常が車のように自在に走り出せば、もはや幻覚だから。

制御なりにそれくらいの真実味のありそうな判断くらいは可能であると、昨日とほぼ同じのあくびをしながら、半身を起こし不快な身体感覚で両腕を、寝室の天井に向かって伸ばしてみる。

そしてつい先程まで、海中に沈みこんでいた殻貝の暗闇の呪詛をもう一度と、あの得体の知れない畏怖と、安然たる心地よさを確認してしまうかのように、恐いもの見たさに似た不穏な感情を波立たせた。

 
そっと眼を閉じる。

まるで死刑囚が執行の刹那に死の恐怖から解放される最後の諦観の祈りの如く。

夜から昼への越境が目覚めであろう。例え昼夜逆転しようとも。
再び眼を閉じる。

カーテンは裁断の儀式を無言で譲り渡した。

まぶたの裏には秋の陽光が自在に赤く広がってゆく。

 

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