美の特攻隊

てのひら小説

まどろみ

今日も星がいっぱいだ。

江波純也は今しがたまで、グラス片手に気分を広げ、又特異点のような空間に去来する自分自身へと酔うにまかせていた。

そして、気がつけば酒場を後にコートの襟を立てゆったりとした足取りで、帰途につきながら夜空を見上げている。

この町の夜道は都市部のそれに比べれば相当に暗い。

帰省した当初は真っ暗と呼びたいくらい、もの静かで淀んだ夜の漆黒に戸惑い、なぜか一抹の哀惜さえ覚えた。が、やがて歳月を経るにつれ、夜の帳に信頼に近い冷静さを宿した、孤独感をしみじみと感じるようになっていた。

夜にまぎれこむのはいい気持ちがする。酩酊の手前あたりの心模様は、あらゆる感情を飲み込んで、涅槃の静寂へと導かれるからだろうか。 

純也は帰宅するとすぐに着替えをすませ、床の中でまどろみの彼方にいた。

 

思わず庭先に飛び出すと、夜の天空高く、圧倒的な威厳と沈着な威光を秘めた、かつてあり得なかった光景が上空に展開している。

巨大な宇宙船。どっちが船主か船尾さえ不可解で、まるでSF映画に登場してくる超大型飛行空母のように見える。

これはとんでもない事になった。

物体は赤や青に点滅し、夜空は異空間へと一瞬にして凍結してしまった。

しかし純也は呆然と視線が釘付けになりながらも内心動悸を抑えつつ、あの夜道の冷静な親密な感覚が沸きいでるのを消し去る事が出来なかった。

やがて自衛隊戦闘機らしき編隊が、未知なる制空権の侵害者に対し、無感情に飛翔していく様が現れる。 

純也は知っていた、これから天空のスクリーンに映し出される活劇がハルマゲドンであるということを。 

悲嘆が訪れたが、いつしかそれはとてもやわらかな絹のようなものに優しく濾過され、夜空を見上げるまなざしは限りなく清澄であると感じていた。