美の特攻隊

てのひら小説

ミイラの恋

そりゃ夜目にも鮮烈だわな、白黒放送の頃テレビで観たおぼえがあるよ。たしか日本の番組だった。この間DVDボックスが発売されてたぞ。それより「事件記者コルチャック」全20話、ミイラ男もいいが、おれはあっちが気になって仕方ない。ホラードラマの金字塔だね、70年代のアメリカの雰囲気もよく出ていてさ、プレミアになる前に買っておくべきか思案中だ。

ああ、すまない、ドラマじゃなかったんだっけ、でもな薮から棒にミイラ男を見たんだって言われてすんなり聞き入れてくれる奴なんていないよな。分かる分かるとも、おまえは十分に冷静だしいつもの態度を保っている、目も泳いでいないし妙な汗もかいてない、鼻息は少々荒いけど。

いいんだ、落ち着いてゆっくり聞くつもりでいるから心配するなよ。悪いやっぱりおれの方が動揺しているようだ、おまえの口ぶりがあんまりまともなもんだから、そう正直なところこういうことになる。

幻覚が生じているのならそれなりの対処が必要だって、ミイラ男よりもおまえの、そのつまりあり得もしないロマンだな、ファンタジーでもいい、ああ、違う違う戦慄だった、脳内だけに抑えておきたいんだろうけどそうはいかない、何故なら現実におまえはミイラ男に遭遇し誰にも相談できず悩んだあげくにおれのところにやって来た。そこまではいい、話しの腰を折る気は毛頭ないけど、問題は現象として共有可能かってことに尽きるはずだろ、だからおれはまずおまえの頭を揺すってみたいわけだ。いいや、この手で揺するんじゃなく、なるだけ時間を気にせずひとつひとつ解明していこうっていうのさ。

そこで当然疑惑としておれは幻覚路線からスタートさせたんだよ、その方がおまえも割り切って話ができるだろう、フィクションを前提にするよりかよっぽど誠意があると思うんだけど、自分でいうものなんだがね。ああ、ほんとにおまえは平常心のかたまりみたいだよ、これでいいんだな、おれの気持ちも汲んでくれるって、疑惑を打破するためにここへ来たっていうわけだ、そうそれでいこう、理解してるじゃないか自分のこと、幻覚や妄想でない証拠を見せるけどって、その件はもう少しあとにしてもらっていいか、何度も言うけど一からほぐして行きたいんだよ。

三ヶ月まえなんだな、そのミイラ男が現われたというのは。それから毎日だあ、朝晩にかかわりなくとにかく出てくるんだと、そして日増しに遭遇率が増えてくるんだったな、すまないちゃんと聞いていたはずだった、遭遇なんかでなく、おまえに会いに来るんだったな、だから必然と言い切れるわけだ。怖いの怖くないのを通り越してしまったってとこからもう一回質問していいかい、さっきの話しじゃお化けや幽霊を語る口調には感じないんだよ、おまえはどうしてもロマンを求めているとしか思えなくなってしまう、そうだろう、今では精霊に導かれているなんて言い方、まだまだ接点が見えてこないんだよ。仮にだ、おれがミイラ男を見たとしよう、おそらくな、おれは早々に布団にもぐってしばらく部屋から出ないようにする、あっ、家の中まで入り込んでいるんだったか、それじゃお手上げだわ。まあいい、これでひとつ態度というか感情移入が見えてきたようだな。

それはこうだ、すでにおまえはミイラ男に恐怖心を抱いてなく、不安定だとは表現できない微妙な心模様に揺れている、頭を揺らすまでもなくもう心に移転したってことだろう。だったら次は覚悟の問題が待っている、つまりこれからもミイラ男とつき合ってやるのかって意味さ。たとえが飛躍し過ぎかも知れんけど恋人との関係に置き換えてみればどうかな、おまえの心がけ次第ですべては決定される方向に近づいているではないか、ミイラ男が嫌じゃないなら別に悩む必要もないし、疑惑を解剖するのも夢がないかもな、えっ何だってそんなのはもう解決済みだって、どういうことだよそれ、はあっ、おまえらの仲はまさに恋愛に還元できる部分もあるって言うんだな。

ならおれもこう捨てゼリフを吐いてやるよ、勝手にしやがれってな。どう違うんだい、勝手が違うなんてしゃれを言うなよ、やっぱり夜中のミイラは怖いってことなのか、そう解釈していいんだな、わかったよ、おれはおまえと恋愛談義するきはさらさらないんだ、そりゃ確かにひとつずつってたいそうなことを言ったよ、だがなミイラに昼も夜もあるとは信じがたいし、ああ、別に無理しなくたって想像くらい働かせれるさ、こうだろう、ミイラは昼間は男だけど夜になれば女になるって、それでおまえは友情をとるか欲情をとるかで煩悶している、はっきり言おう、ミイラの肉体は実は両性具有であのぐるぐる巻きの包帯をほどいたときにはもう虜になっていたんだ。ミイラとりがミイラなんて決して口にしないつもりだったが、おれまでそこに加わってしまいそうだからはっきりさせておく。ミイラ男には名前があるな、いや隠したってだめだ、おれには段々と読めてきたぞ、そのまえにおまえから明解な説明をもらおう、ミイラは女だな。

そうか、、、よく告白してくれた、いいんだ、おれはおまえを追い込む気なんかまったくいないよ、当てずっぽうな意見も許して欲しい、しかしおまえの頑なな姿勢の裏までは見通せなかった。で、どうするこれから、相手は記憶喪失なんだろ、打ちどころが悪かったんだろうよ。それにしてもひき逃げされた怪我人をかくまうっていうか、引き取るっていうのもどんなもんだろう。確かに病院の側の信号で見かけたってこと信じるよ、でも全身包帯巻きだろう、すぐさま病院なり警察に報告すべきじゃなかったのか、なんで車に乗せたりしたんだ、下手すりゃ誘拐だぞ、いやもうそれは、、、今はおまえを責めたりしたくない、で、アパートに連れて来たんだな。

えっ、告白はまだあるって、何だよ一気にバッーと喋ろよ、ああ、すまない、いいんだ落ち着いてなそう約束した。包帯は全身ではない頭部から顔面にかけてだな、いいからあわてるな、それで最初は性別も見分けれなかった、胸のふくらみが目立たないうえに怪我のせい声が出さないのでてっきり男だと思ってしまった、そしてどうやら記憶も曖昧みたいだったからとりあえず車に乗せ様子をうかがったんだな。でもおまえは良識を持ってそのまま病院に向かおうとしたわけだ、すると自由の利く両腕がうしろからまわって来て首を絞め始めたんで、驚いて急停車しその哀願から何かを察知したと、そのときもまだ性別を見極められなかったけど、手話みたいな素振りがあまりに懸命で憐れみが感じられたから怪我人の意向に即してしまったということか。

だけど、どうなんだおまえの性格はよく知ってる、一見気弱そうだけど優しくて結構意志が堅い、あながち間違ってはいないだろう。それでも合点がいかんな、相手が女だと判明したからずるずると引き延してしまったとは到底考えられないね、おまえの気性からして最良の方策を選ぶはずじゃないか。えっ、これが選択だったとは意味が分からん、もう少し補足してくれよ。

野暮なことは飛ばしていい、ああ、ひとつの部屋に男女が昼夜をともにすればってことだ、そんな発端など今はいい、それよりも大事なのはおまえのとった行為を分かりやすくおれに説明することだよ。なるほど性分ねえ、その通りだと言い切るのか、確かに意志が堅い、まさか一目惚れでもあるまい、えっ、そうか、、、そうだったのか、おれとしたことがそこを見落としてしたんだな、さっきの話しで勘づくべきだった、首絞めか。

あれからミイラ男になりきってもらい背後から不意に首を絞められるのが刺激になり、そしてその快感から逃れられなくなってしまったと。それもまあ結局発端だ、で、女は記憶を翌日には取り戻していたんだな、そして自分がひき逃げされた場所をおまえに聞かせた、おまえは予期していた最悪の場面に見事立たされてしまい、快感だと信じようと必死で努めた被虐的行為の正体に愕然となり、真実を打ちあけようとしたが、どうしたことか女は何とも形容しがたい笑いを浮かべるだけでおまえの犯罪をなじろうとはしなかった。

そのかわりに包帯をとりながら然してひどくもない傷口と素顔をさらけだし、身のうえ話しを長々とおまえに語ったんだな。いいんだ、泣けてくるよおれだって、女の不幸な生い立ちから始まって現在の生活ぶりに至ったあたりですでに決心がついていたんだろう。ミイラもそれを望んでいた、理由はもういいよ、それよりおまえの身の振り方を心配している。まるでサスペンス劇場で放映されるみたいな展開じゃないか、テレビでは決まって悲劇に結ばれるけど、おれはそれこそフィクションだと思っているよ。

だからおまえの意志が今ここで問われるということは、実は問いかけでとかじゃなくて字義どおり意志そのものさ。気が合うんだろミイラ女と、向こうも承知しているからだろ、おまえはこの三ヶ月の間悩みに悩んだ、そして結婚相手として了解したいんだろ、悲劇は転じて福となる、しかしおまえの良心の呵責はまだまだくすぶっていて疑心暗鬼に堕ちないとは言い切れない。そうかミイラ女は案外いい体してるのか、野暮は抜きってことだったけど、どうやらおれは根本的な過ちを犯していたな、そうだともひき逃げは立派な犯罪だし、いくら女が許したとしても今後の生活に影を落とし続けるのは避けられないだろう、えっ、何だって、、、そんな馬鹿はおれが許さんよ、今度はおまえがミイラ男に扮して女に轢いてもらうだと、それであいこにでもなると考えているのか、気持ちは分かる、分かるけどそれでは解決にならない、、、そうだった、おれに相談だったな、仕方ない、申し訳ないがあくまでひとごとの域は出ない発案だ。

所詮はひとごとでしかない、でもな自分では踏ん切れないことを他人が受け入れる場合だったあると思う。いいか、こういうのはどうだろう、おまえとミイラ女は嫌になるまでとにかく一緒に過ごす、それだけだ。あとミイラとりは、、、すまん、これは蛇足だったな。

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