美の特攻隊

てのひら小説

タイムマシンにお願い~6

そこは見渡すまでもなく奥深き懐かしさで囲繞されていた。

透明人間の心境を引き寄せたのも時間の為せるわざなのだ。そう考えても罰は当たるまい。

郷愁とは聞こえこそ角を立たせないが多分に泣き言を孕んでいる。これもあながち的から逸れてはないと思う。

懸念した動揺を緩和すべく、気抜けした一こまに乗じたわけだが、残念ながら本来の時間とはかけ離れたところで懸命に演じてみても、自画自賛の寸劇の域から脱することは無理だった。

しかし磁力の治まった椅子から立ち上がり竹やぶの先にあつらえ向きな灌木の茂みを見つけると、あらかじめ内蔵された機械の働きのごとく素早く椅子を折って隠し、にじみ出るはずもない汗を想像したりして我ながら先行きの好調に胸をふくらませた。

もちろんよくまわりを観察し人気のないのを知ったうえでの小さな満悦だったが。

世紀の大実験に携わっているんだ、これくらいの自負は大目にみて欲しい。

とはいえ実際のところ、開発者のNさんから念押しされた通り、竹やぶの場所は間違いないとしてこの椅子をなくしてしまった暁には取り返しのつかない結末へと転じてしまうから、傍らに抱えて行くのが最善だろうけど、もう片方では割と大きな鞄を手にしているわけで、道中の不便というよりも変に目立ってしまうのでないか、そう危ぶむのも無理はないであろう。

今の時代だって40年前だって、事務椅子を脇にして町中を歩いている人間をそうそう見かけはしない。

風呂敷包みでもすればよかったかも知れないが、今度は紛失なり万が一の盗難などという危惧が念頭から放れず、転送直後に見いだした隠れ蓑がやはり最適だと判断した。多少汚しても機能に弊害は及ぼさないだろう、そう勝手に解釈して地面の土をまぶし、枯れ葉を乗せ、小枝を如何にもありふれたふうに被せておいた。

その間も人目を気にしていたけど、この竹やぶの向こうに民家はまだなく足を踏み入れる人影も探すほうが大変だ。

過去の情景は記憶からずれていなかった。これでかなり安心したわけだけれども、野ざらし状態には違いないので、もし雨に降られたらとか、この地域は滅多にあり得ないが雪でも積もろうものならとか、結果タイムマシンに不具合が出て来るのでは、そうした不安の種のつきないまま、これより他に妙案は浮かぶこともなく、精々どこかでビニール袋など調達しようと考えみたが、不自然さを増すだけかもと、隠し場所と転送位置の目印も計りやすかったから、帰還の利便を優先すればおのずと最前の処置に落ち着くのだった。

懐古趣味の予測に付随しているようなこんな注意深さも旅の道具仕立てと思われた。

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