美の特攻隊

てのひら小説

タイムマシンにお願い~16(最終話)

「それであなたは少年を竹薮まで連れていったというわけですね」

薄暗い小さな部屋に煙草のけむりが充満している。自分を詰問している男はまだ青年らしく、油染みた容貌と妙に取り澄ました態度を持たない代わりに、口調は鋭いまま感情をあらわにした目つきでじろりとにらんだ。

「何度も言っているでしょう、竹薮ですよ」

「数人の目撃者がいるけど、Nさんあなたは見るからに陶然としてひとりで歩いていった。酒も飲んでたみたいだしどういうことです。少年と一緒ではなかった」

「誰が見ていたと言うんですか。わたしのことなんか知るひとはいない」

「知るも知らないも全員がNという名前を口にしているんだ。どこに少年を置いてきたんです」

「だから竹薮に隠しておいた椅子に座らせて未来に送り届けたと」

「そんな戯言が通じるでも思っているのか」

男は声を荒立てたことに損をしたとでもいう表情をのぞかせ、今度は薄笑いを浮かべながらこう言った。

「まあ、いいでしょう。で、市役所前までは連れ添っていた。これは何人かの証言から裏づけがとれている。ではもう一度聞きますよ、どうしてあの少年を狙ったのです。確かにあの土地はあなたの生家だったが、随分とまえに売却され家も立て直されてる。その縁故だとしたらお粗末じゃないですかねえ」

「わたしを偏執狂あつかいする気ですか。ひとの家と自分の家の違いぐらい分かってますよ」

「ほう、きちんと認識してるってことですね。なら辻褄が合わんでしょうが」

「どういう辻褄でしょう。わたしは自分の家のまえを通り、そこに住む少年時代の自分を待ち受けていたまでのこと」

すると相手は話しの腰を折る勢いで問いつめてきた。

「だったらあなたはどこから来たっていうの、未来からなんて冗談はいい加減にしてもらいたい」

「よく分かってるじゃないですか、その未来からタイムマシンでこの時代にたどり着いたのです」

「またそこに戻る、あのねえ、もうふざけるのはやめにしてだね、きっちりお粗末な事情を吐きなさい」

「縁故がお粗末なら自己撞着は最悪ってことになります。しかし本当なんだから仕方ありません」

「精神鑑定を受けたいと願っているわけ」

「別に、どうでもいいです」

「誘拐の罪は軽くないんだ。身代金目的だったのか、それとも異常欲求か、意味のない犯罪はそろそろ終わりにしてだね、現実に向き合おうじゃないの」

「まだ終わってませんよ。写真のほうはどうでした。わたしの成長記録として間違いないのでは」

「Nさん、あなたをの知るひとはこの町に沢山いる、なぜ写真なんか証拠にしなくてはいけない」

「ああ、言い忘れましたけど、あの写真をですね、わたしの家の者に見せてもらえませんか」

「どの家にだって」

「わたしの家にです」

「どうしてもしらを切り通すつもりなのか、、、」

問いかけに付随した男のため息は本物だったと思う。声の張りは失っていないけれど、語尾が尻つぼみになった。

自分の記憶は鮮明であった。これから先もずっと絶えることなく、、、

 

 

自分はNと呼ばれた。見知らぬ顔に出会うように又わたし自身にも出会いは生じている。

「この腕時計をしっかりはめているんだよ。絶対になくさないないように。きみのことはおじちゃんが誰よりも知っているから、、、中華そばもタコ焼きもおいしかったね。それから卵がない時はお好み焼きはつくらないほうがいいよ、紅ショウガも入れ過ぎてはいけない。さあ旅立つんだ、またいつか会えるさ、必ず」

過去にしがみついてばかりはいられない、かといって現在を生きていく意欲が盛んであると断言できず、仕方なく過去に生きるのか、、、この考えは死に限りなく近い薄皮一枚でへだてられているようにも思える。

なにをもってしても破れない被膜、破れないならあきらめよう。

それから未来への展望は決して透かし見るものではない、むしろ閉ざされた暗黒の彼方を夢見る力が望ましく、また美しい。

自分は時間を狂わせたのではない。狂いが時間を修正したのだ。

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