美の特攻隊

てのひら小説

まじわり

冬のひかりが遠い彼方にかがやいている。

一月の末に吹きぬけてゆく風は、時折思い出した気分をふくみながら二階の窓から部屋のなかへと訪れた。

両端に束ねられた亜麻色のカーテンから解放された、白いレースの透かし模様はやわらかに羽ばたくようにして舞いあがり、晴れわたった空の青さを一層あざやかに透かして、静かに重力へ抵抗をみせながら、少年の瑞々しい背中のはしを、そっと撫でていった。

「どういう感じがした」

喉がかすれ気味になった抑揚のない低い声は、ある意味を孕むことにより、限りない透明度をもった艶やかな水質に似たしたたりを純一にもたらした。

たったいま首筋から肩先へと流れおちたくちびるは、女体との清冽なふれあいの余韻を噛みしめる間もなく微風に呼応してしまい、

「ああ、よかった」

と、如何にもけだるさを漂わして答えたのだが、やはり気恥ずかしさからくる演出であることを反響音としてとらえたあと、純一は背中から脇腹にかけ奇妙な感触を覚えた。

「いいのよ、そのままじっとしていて。こうしているのが好きなの」

安全日だからと言った相手に、いつもより情愛をつのらせ流れゆく発露まま、あふれだす精気は体内深く注がれたけれど、その生命の種子は育みをかなえられなかった代わり、ふたりの間には見えない絆を誕生させた。

「わたしも感じたわ、日に日に上手くなってくわね」

「そうかなあ、じゃあ、あとでもう一度」

素裸同士の快楽と軋みは、ベッドのシーツを乱し、そのしわが作りだした隙間へ、徐々に激しくなる息使いと連動する肉体から、肌寒さを実感することに抵抗するよう、きらきらと汗がしたたりおち吸収されていった。

ふたりを包みこみながら通っていった寒風は、ことが果てたあとへ新たな快感をあたえていったようで、からだをふるわす悦びとは種類の違う、解放的な清涼感となった。

では、肉感は解放をもたらしはしないのだろうか。

こうやって日をあけず、互いのくちびるを吸って裸をまさぐりあうことは、強烈な密接を生みだすこととなり、かつて知り得なかった緊縛を純一に授けていった。

それは志願兵の心意気に近い不自由への讃歌であり、規律への逃走でもあった。愛欲という名の監獄へひた走る為に。

唯一異なるのは、勝利をおさめることに目標を定めない、無謀な戦略による光画だと云うことであろう。

 

 

純一はこの年明けで十九歳になった。

両親の反対を緩和させ妥協案をのみ、自分の望むままに東京を離れこのまちにやってこれたのは、ある意味奇跡かも知れない。あの夕暮れどきに起こった家族間の葛藤劇は、血のつながりをあらためて確認しあう、ひりひりした面映い慰撫を日常会話のなかへ染みこませていったのである。

高校最後の一年に軋轢がふたたび生じなかったかと云えば、そうでもない。

父よりは母からやはり、もう一度よく考えなおしてみるよう再三さとされ、

「都会の生活から逃れたいのなら、試しに近郊の山村とか漁村へアルバイトしながら暮らしてみればどうなの。あんたは東京で生まれ育ったからわからないでしょうけど、この国の田舎なんてどこでも同じようなものよ。山々があって川が流れて田んぼや畑がひろがっていて、背の高い建物はない代わりに、似た民家が立ち並んで、しんみりとした道路のむこうに海が見えるの。

ねえ純一、お願いだから自然とふれあいたいとか思うのだっら、一度近場で体験してみて、そこから腰をすえて見つめても決して遠回りではないと思うのよ」

腰をすえて、と云う言い方には技巧が隠されているのだとしか聞こえなかった。

結局、母は距離感によってはばまれる意思の疎通を怖れ、手の届かないところで見舞われる不運や、あらぬ転落を憂慮し、見張りのきく範疇に留め置くことで負の要因をあらかじめ最小限に抑えこもうと企んでいるのだ。

あのとき「だったら、母さんも最初の期間は同居する」と言ったけど、東京からこの町まではやはり遠い、近くに住まわして常に監視するのが実は最後の譲歩に違いなかった。

そんな母の言い分を引っこめる為、純一に残された手段は追いつめられた獲物が牙をむく、決死の賭けを試みるしかないのであった。

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