美の特攻隊

てのひら小説

ちび六危機一髪

うとうととろとろとろけるようなねむりのせかいにいたはずなのでした。

どうしてでしょう、ふっと目がさめてしまったのです。ふろばのせんめんだいのすみっこできゅっと足をまるめてねむっていたのです。

しんでしまったと思いましたか。いいえ、ちび六はとうみんしていたのですよ。

なかまたちは寒くなるとえさのむしがいなくなり、ひもじく命がたえてしまうのですけれども、、、まえのおはなしで知っていますね、そうなんです、ちび六はらーめんのきれはしなんかを食べていましたので、ふつうのはえとりぐもとは違うせいめいりょくをもっていたのでしょう。

それというのもこの家のおねえさんがみっかとあけず夜中に、もそもそとなにかつくって食べているおかげです。ちび六はほかのなかまにもおしえてあげたのですが、やはりいんすたんとしょくひんはむりなのでした。

かっぷぬーどるには肉だってはいっているのに、そうすすめてもみんなそっぽをむいてしまうのです。

ただ、くも男爵だけはしーふーどぬーどるを知っているくらいでしたので、よくいっしょにさんかくあみにへばりついてもぐもぐ食べながら「よかったなあ、おねえさんがこの具がきらいで」なんていいあっては、にんまりしておりました。

それだけではありません。ええ、さいきんはいんすたんとだけじゃなくちゃんと手づくりのりょうりもこしらえていたのですね。

べんじょさまと呼ばれたけんじゃの老くもはそればかりにねらいをさだめていたそうですが、もうすがたを見かけることがなくなり、そしてだれもがゆくえをくちにすることはありませんでした。

ちりちりばらばらあちこちかさかさ、はいはいはってかべをのぼれば見はらしがよくなりますのでちび六はさっそくいつものてんじょうの隅にやってきて、へやのようすをながめましたけど、あいにく夜もふかまっており家のひとたちのけはいはなく、おねえさんもねてしまったようです。

せめてくも男爵はとはんべそをかきながらきょろきょろしてみても、こころもとないみかんいろのでんとうが灯るだけで、冬のまよなかはとてもしずかでした。

はぁっとちび六はためいきをもらし、じぶんのきょうぐうをふりかえろうとしたそのときです。

「おい、げんきそうじゃないか」

そう声をかけてくるものがいます。よく見れば、くも男爵ではありませんか。

でもげんきそうというわりに、男爵のほうはえらくよぼよぼしておりかつてのさっそうとしたおもかげがありません。しかし出会えただけでちび六のこころはぱぁっと華やぎました。

「ぼくだけがめざめてしまったんだとさびしく思っていたんです」

もうなみだ声になってます。すると男爵はたいぎそうにまえあしをあげ、ひややかなえがおをうかべながらこういいました。

「さびしいのはおまえだけじゃないさ。ほらあそこを見てごらん」

まえあしはそのため優雅にちゅうへうかせたのでしょうか、さすがはほまれたかきお方などとかんしんしてしまい、こんどは胸がじい~んとするのがわかります。

「みえたかな、てーぶるのすみっこだよ」ようやく男爵のことばがいきいきとしてきました。

「はい、かごがおいてありますね、あったかそうな毛布も、あれっ、ちょっとちがうかなあ、いきものですか」

「そうさ、おまえがめざめるすうじつまえにこの家にもらわれてきたんだ」

「あっ、うごいた。でも目はつむったままですよ。やはりとうみんでしょうか」

くも男爵のくちがむずむずしています。これはまだしらないひろいひろいせかいを語ってくれるときのまえぶれなのです。

ちび六はうきうきしてきました。で、男爵をまねてきどったかおをつくってみました。せのびかも知れませんが、ええたぶん、そうでしょうね、するとあんのじょうからだがまえのめりになってしまい、うしろからちゅういをうけるしまつですから、あわてんぼうはけんざいです。

「とうみんじゃない、ちかづくとあぶないぞ」

男爵の語るところによれば、なんでもあのしろいかたまりは子犬だそうで、子というのはちび六といっしょだと、やがてはおとなになるのだからね、そんな落ち着いたいいかたにかすかなていこうがあり、それは長いねむりをけいけんした身からしてみれば、ひとかわむけたようなきぶんをかかえていますから、たしかにずうたいはきえいるようにちいさいですけど、子犬とおなじにされてはおもしろくありません、だってまえにもぼうやのとうじょうで散々てこずった思いがありますし、きれいなおねえさんに恋したことだってわすれてはいませんもの。

なのでぷいっとむくれたかおつきで耳をかたむけていたのでした。

ちび六のきげんはとりあえず置いときましょうね。

さてこの子犬ひとたびおきあがったらさいご、もうてがつけられません、あちこちどこどこはいはいどころではないのです。くんくんぱかぱかぐるぐるわんわん、それはそれはすごいはしゃぎようでしまいにはだいどころのさんかくあみまでとびあがってきたというからおどろきではありませんか。

男爵はそのとき子犬のつまさきでふしょうしたのでした。どうりできはくがかすんでいたことをちび六はさとりました。

「ぼうやとはうごきがちがったのさ。すばしっこいたらありゃしない、とうぶんはあのちょうしだろうな、だが夜間はだいじょうぶ、ほらあのとおりすやすやおやすみだよ」

はるのとうらいまであとすこし、めざめのふあんをかきわけるようにして淡いきぼうがちび六のこころにいきづいています。そしてべんじょさまやほかのなかまのしょうそくもしんぱいげにかすめてゆきましたが、傷つきおとろえた男爵のすがたをまのあたりにすると、なぜか問いただすことができなかったのです。

「夜はへいわなんですね」

そうきこえるかきこえない声でつぶやいてみました。男爵はじっと子犬をみつめています。

ちび六もおなじようにしせんをならべました。おやどこかでみたことあるぞ、はてどこだったかな、かんがえればかんがえるほど子犬のねがおがふしぎでなりません。ようじんぶかい男爵をめさどくさっちしたとはなんておそろしいやつだろう、でもここちよさそうなひょうじょうから想像することはなかなかむずかしかったのですね。

しばらくしてから「あっ、わかった」そうさけんだとき、男爵のすがたがとなりからきえておりました。

ちび六は悲しくなりましたけど、どうじになぞがとけたよろこびがとっぷうのようになにもかもふき流してしまって、さっそくだいどころのほうへはってゆきました。おなかがへってきたのです。

男爵はきっとひるまやられたんだ。それをおしえてくれたんだ、ぼくはしんちょうにこうどうしますから。

夜のしじまをやぶるおとがつたわってきたのはそのちょくごでした。ええ、ちび六にはききわけられましたよ。あれはおねえさんがかいだんからおりてくるけはいなのです。

「きょうはごちそうかなあ」

おなかがぐうっとなりました。そしていつかみたテレビのがめんに子犬のすがたをみいだしたのでした。