美の特攻隊

てのひら小説

たけやぶやけた

一席おつきあいのほどを。

しかしなんでございますな、最近の子供は加速する情報化のせいでしょうか、随分とませたものの言い方をするものです。

ある家にお邪魔したとき、見かけない女の子がふたり、大はしゃぎしておりまして、あるじに聞きますと、近所からときたま遊びにやってくる姉妹だそうで。

とうに成人し所帯をもった子息なきあと、こうしたちびっ子は別に迷惑じゃありません。広い庭なのでのびのびと楽しんでいる様子は目に優しい、そう申しておりました。

ところが、ささいなことで喧嘩をはじめ、妹が泣きだしてまったのであるじは、

「これこれ、なかよくしなくちゃいけないよ」

そうなだめるよう注意したところ、姉のほうが、

「こどもは泣くのが商売だから」と、真顔で答えたのですな。

 

 

太郎と花子は一卵性双生児、しかも健康優良児ですくすく生育していました。

界隈で知らぬ者なぞいないくらい、朗らかな性格のうえあいさつをかかさないので、皆が微笑ましく眺めていたのは言うまでもありません。

ところがこの兄妹、小学3年生とは思えない会話をしておりまして、

「ほらパンツ見えてるぞ」

「あんたの非常口だって開いてるよ」

「ば~か」

「か~ば」

「ほかの子のパンツのぞきすぎよ」

「だれに聞いたんだ」

花子はにしゃにしゃ笑いながら、

「およそ見当つくじゃない、的確な推測よ。なんの因果か知らないけど、双子で生まれてきた宿命、あんたの心中なんてお見通しってこと」

などと口にします。もちろん太郎だって負けてはいません。

「学校中のイケメンに声をかけてるそうじゃないか、みっともない」そう切り返しました。

ところが、

「あいさつしてるだけよ。おはようとか、さよならって、あんた邪推が激しいわね、それともひがみ。あたしがもてるの知ってるくせに」

これには太郎もたじたじ、そしてむかむか、複雑な感情が入り乱れたのですな。そっぽを向きながら、ひとこと「ひがんでなんかない」と、まあ花子にしてやられた態であります。

 

その晩、太郎はこんな夢を見ました。

なんと花子と結婚式をあげているのでございます。はい、正真正銘の婚儀です。当の本人の心境はといいますと、これがまんざらでもない、とってつけたにしては幸せをかみしめている表情で。

はてさて、気でも違ったのでしょうか。いえ、どうも夢のいびつは空間を形成しただけに思えてまいります。

「花子、生まれてくるまえから僕らは結ばれていたんだね」

「そうよ、運命と神秘が織りなす至福に包まれているの」

いやはや、まんざらではなさそうですな。さらに、

「授かる赤ちゃんはきっとわたしたちと同じ双子、そして、、、」

これは濃厚なる血の配合でございますよ。

太郎のまぶたが赤く染まったのはカーテンの隙間からもれる朝陽だけではなさそうです。

 

「妙な夢を見たな」

となりで微かな寝息をたてている妹に静かな目線を送れば、ぱっと朱をさしたような頬の色づき。

まだ夢のなかにいるような心持ちがし、

「同じ顔してるもんな。もともとは一緒だったんだろう。とけあっていたんだ」

現実からひょこっと抜け出してしまうと、気分がやわらいだようで。

そのとき花子が寝返りをうちました。まるで太郎の意識に反応した気配さえ感じます。

「あれ、またパンツが見えてる」

またまた、でもばかにした気持ちは付随しておりません。むしろ、いたわりに近い親和の情です。

そっと目を閉じれば、まだ婚礼の華やかさが漂っていそうで、これは未来からの送りものかも知れない、だから、夢はさかさまなんだ。

と、えらく神妙な想いに駆られたのです。そう、太郎は自分に酔っていたのでしょう。しかし悪戯が芽生えたところで、もとの木阿弥ですな。

「パンツを裏表にはいてやがる」

いえいえ、花子はそんな粗相はしておりません。

お後がよろしいようで。