美の特攻隊

てのひら小説

くるみわり人形〜後編

日が落ちる少し肌寒くなるわ、でもあんたの胸のなか温かいんじゃない、ふふふ、うちに着くまでに説明しとかないといけないわね。

いきなり対面では、、、いい良子、決して怖がってはだめよ、優しく見つめてあげて。

そういうあたしも当然ながら最初は凍りついた、出た、地縛霊に違いないって。

場所、もちろん部屋のなか、驚かないで、布団のなかよ。

断っておくけどあたし霊感とか全然ないし、幽霊の存在を信じているわけでもないの、ただ夢にいつも妙なものが出てくるから今さら目の当たりにしたところでおののいたりしなかった。

えっ、いつからかって、う~ん、どれくらいまえからなんだろう、あっそうじゃなくて、今の件ね、引っ越したその晩からよ。

細かいところまで知らないけど、血なまぐさい事情はあったみたいね。だからといってすぐさま心霊現象に結びつけようなんて考えてもみなかったし、正直なところ物騒な駐車場から離れられ、オオカミともおさらばして、家賃も安くなる、へへ現実的でしょ、何よ、その顔、良子らしくないわねえ、眉間にしわなんか寄せてさ。

あたしのあたまを疑っているんでしょう、仕方ないか、でも実際に霊が出たんだから、、、どっちが現実なんだろう、どうしたの良子、今度は微笑、ううん、ありがとう、あたしもなんかうれしいわ。で、布団がもぞもぞしたの、なかを覗いたら小さな顔があった。

おかっぱ頭の少女、ほら「千と千尋」に登場するハクっていたでしょう、ちょうどあんな雰囲気だった。

ものすごく冷たい眼をしてるの、視線が外せない、時間が止まっていたようだった、夢かも知れない、でもしっかりと意識はある。

夢で夢を意識することなんかしょっちゅうだわ。だからどちらでもよかったの。

心臓は止まってなかったみたい、春の雪どけ水だって冷たさには変わりないと思うけど、氷の世界と水の流れは一緒じゃないわ。あたしはまだ死んではいない、なんか妙な感じね、おおげさっていうか、生死の境目を漂っているみたいに。

見つめるほどに少女が何かを訴えているような気がしてきたの、そっと手を差しのべてみた。ああ、冷たいって感じた瞬間にぐいって引っ張られた。

本能的な恐怖に包まれた。あわてて布団を蹴飛ばして起き上がったらもうそれきりだったわ。

 

そんなことが数回続いたある夜、あたし意を決して再び手を握るふりしてかわし、もう一方の手でもって少女のからだをつかみ引きずりだしたの。えっ、怖くないのかって、そうね、好奇心が勝っていたように思う、それと慣れ、これが一番怖いわ。

でね、引き上げると拍子抜けするくらい身軽だった、すかさず枕元の明かりをつけてまじまじと少女を見つめた。

青みがかったパジャマを着ている、しかも男もの、えっ、もしかしてこの子は少年なの。

あたし何のためらいもなく胸をなでてみた、ガラス戸のような感触、そのまま指先を下半身に這わせると、あったわ、突起物、きみは誰なの、内緒話しをする要領で声を細めてそう訊いてみたけど、返答はなくじっと見つめ返しているだけ。

寂しそうな表情だったわ、いえ、あたしがそういう見方しか出来なかったかも知れない、どうしてかって言えば、、、良子、あたしを馬鹿にしないでね、、、パジャマの下を脱がしてみた。

そう下着もろとも、それは立派な大人のものだったわ、しかも陰毛は真っ白で全然縮れてなく白糸のようになめらかなの、触れなくても分かるくらいに。

きみはいくつなの、答えはない、あたし最近あれしてないけど、男のあそこは十分知ってるから胸騒ぎがしてきた。

おさまりつきそうない息苦しさ、でもずっとじゃない、いつかは消えてしまうだろう遠い海鳴りにも似た心細さ、そしてあえて情緒を不安にさせる優しさ、少年が口をきけないのはすぐに理解できた。

あたしなんかとは喋れないんだ、棲む世界が違うからよね、だったら何故ここに居るのよ、どうして易々と引きずられておちんちんだしてるのよ。

少年は顔色を変えないし、怒りに任せた内語も通じていないようだった。

だけどもきみはこうして黙って佇んでいる、そうよ、お見通しね、あたしがこの部屋を求めたのよ、きみに出逢うために、、、良子、わかるでしょ、その子はあんたにそっくりだった。

少年のものに触れてみた、当たりまえのように堅くなったからしてもらった。嫌がったりしなかったわよ。

ところであんたがあたしを警戒しているのは分かるわ。でもまあ、よくここまでつき合ってくれたわね。

あたしが女装してても動じないんだもん、良子あんたはいいひとだわ。

そこの角を曲がったとこがあたしのアパートよ。もう分かったでしょう、地縛霊と会っていく、はははっ、無理しなくていいんだ、そんなものいない、あたしが帰るまでは絶対にいない。

ありがとう良子、素敵なほほ笑みだわ、だけどもあたし本当は蔑んで欲しいんだ、ささやかなお願いよ。