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美の特攻隊

てのひら小説

返信 〜 纏

前置きが少し長くなってしまいました。
お許し下さい、ひとつは貴女に対する真摯な謝罪を、もうひとつはあの日以来、相互のなかにあったと思われる心持ちと誤謬を、確かめておかなくてはいけなかったからです。
先日、純一から連絡がありました。
といいましても家内宛ですけれど、そうです、貴女との交際を結実させる相談、ずばり結婚についての声明でした。なにやら拍子抜けしたような表情でこの私に仔細を語るのですが、困惑を隠しきれない様相は当然でながら、、、夫婦間でのやりとりは割愛させていただき、それより、またしても息子の矢尻が放たれたかの気負いに押されかけた一週間後、今度はかつて知ったこともないくらい途方に暮れた様子の電話があったと聞かされたときの気持ちを察して下さい。
貴女よりいただいた書中からおおよその局面は窺えていましたけれど、まさかそんな情況が息子の身に降りかかってしまったとは、、、ことの発端はこの自分にあるというのに、どこか絵空事を観察しているような心境を。
直後に津波のごとく押し寄せてきた、貴女にも指摘された成立しない反応、そう、どうして最初の段階で策を講じるなり焦慮を抱かなかったのか、何故ことの成りゆきを等閑に付し、薄ら笑うよう見過ごそうとしてしまったのか。
ひたすらに反復する後悔の波しぶきを浴びながら、行きつ戻りつするのはそれでも、どうにか意味だけでもかまわない、付与しなければという、懺悔にはほど遠い俗物精神の生成だけでした。

申しあげましたように、純一の意思決定を知るに及んでようやく、ことの全体像が俯瞰できることになり、まずはあまりに自己保身と安住の精神をむさぼり続けた猛省として、傲慢な思惑を含んだまま貴女に書き記すことが要請されたのでした。
お手紙が届いたのがちょうど二週間まえ、それから純一の落胆を聞かされるまでの間に私のとった行為は、一途に煩悶するのみでした。
どう返信するべきなのか、ましてや封筒には名前のみ記されたままで住所は伏せられています。
貴女の一方的な思案がそこにすべて込められているかのようで、ただならぬ雰囲気、またその秘密めいた様相が醸し出す匿名性が、こころのどこかに不安とは別種の安息を位置づけようとして、あらぬ想像をめぐらせてしまう始末、閑却してしまった問題にあわてふためき、極秘のうちに貴女に連絡をと(手紙ではなく違う手段で)あれこれ考えこんだりもしました。
貴女の住まいは分かりませんでしたが、純一から聞かされていたアルバイト先の飲食店はすぐに判明しましたので、そちらに送付させてもらいます。
無粋な下衆と思われても仕方ありませんけれど、あの封書はある意味強迫文をはらんで差しだされたのではないかと訝りました。
それに対するまたもや過剰な防衛が、純一をだしにしたくだらぬ心理描写と、沸々わきあがってくる猜疑を鎮静させるために仕掛けた貴女への挑発だったのです。
その模様は克明とまでは言えないにしろ、お明かししたつもりです。
遅疑する苦渋の顔色までを読みとっている貴女の慧眼はまことにたいしたものだ。素晴らしいと感嘆の声をあげたくなってしまうのも無理ありません。

そして三日前、私なりの解答を提示すべく書き記した内用に封をし、あとは投函するまでだったのです。
ところが、再度筆をとりそれまでの文面のある箇所は削除され、書き直される必要が生じてしまったのです。返書の遅れはそうした次第によるものでした。
ここから書きだすことが、実質その必要性なのです。これより先は端的に申さなくてはいけない。
あの晩、純一はこう私に電話口で喋ったのです。
「お父さん、あのひとのこと知っているの、彼女は帰省の列車で乗り合わせたって話してるけど。それっていつの話しなの」
もちろん私は、さてどうかな隣どうしになったような記憶があると、言葉をにごしながら写真を見た限りでは思い浮かべることがあり得ないと答えておきました。又それ以上の探りを入れる素振りが電話の向こうから伝わってこなかったので、無論こちらから詮索はしません。

一体これはどうしたことなのです。純一には列車のことは触れてないと、手紙には書かれているじゃありませんか。
私は確かに自分勝手かも知れません。
もはや自意識を放れたところで、自在に意味合いを構成しているだけの救いようのない気まま者なのでしょう。行動として外部に躍り出たものは正直にお話した通りです。もっとも貴女に同じ歩調を強制することは出来ませんが。
だからこそ、答えて欲しいのです。果たして、どのような考えをお持ちなのかと。

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