美の特攻隊

てのひら小説

たなからぼたもち

【第3回】短編小説の集い 参加作品

 

「今日はえらい人出やな、クリスマスやからかの~、おやっ、べっぴんさんもぎょうさんおるわ」
じいさん、いつものようにパチンコ帰りかと思いきや、
年金生活のわしらにケーキなんぞいらんわい。ばあさん、みょうなとこだけ気前ようて困ったもんじゃ。はよ帰って三個で二百円のラーメン一個くって寝よう」
と、ぶつくさ言いながら寒空に身をちじませ、とぼとぼ歩いておった。

「なんや、あれ、派手な屋台やなあ」
近づいてみれば、ソフトラーメンとの看板、しかしだれもおらんかった。

「これはキャンペーンちゅうやつかも知れんな。おっ、書いてある書いてある」
「らっしゃい!新発売でっせ。どうです、だんなさん」
「なんや、店員おるやないか」
「ケーキは一番やすいのでかまへんわ、腹へったし食べてこうか」
「へい、お待ち!」
「また早いでんな。れれっ、なんやこれ、ただのソフトクリームやないか、どこがラーメンや」
「お客さん、いちゃもんつける気でっか。しっかりかじってみなはれ、コーンの部分がラーメン味になってるんや、おおきに、五千円です」
「ご、ごしぇんえん、、、ぼったくりかい。そこにキャンペーンって出とるやないか」
「なに寝ぼけたこというとるんや、キャプテンって書いてあるのが読めんのでっか」
「なんやそれ」
「わしは暴走族の特攻隊長しとったんや。食い逃げはあきまへんで」

トホホ、じいさん、詐欺におうたみたいです。
「えらいこっちゃ、ケーキの代金なくなってしもうた。ばあさんにどやされるやろな、あ~あ、神も仏もないわ」
そのときやった。じいさんの足もとに一匹の子犬がしっぽフリフリじゃれついてきた。なぜか赤い帽子をかぶっておる。キョロキョロみわたしたけど、飼い主らしきすがたは見当たらん。
「迷子かい、寒いしなあ。じいさんとこ来るか、ケーキのかわりじゃ、これでばあさんをまるめこんでやる」
じいさん、腹いせに姑息なことを考えつきおった。

「遅かったやないの、あれま、その犬どうしたんや」
「じつはこれこれあれこれケーキがのうてあたふたいやはやああしてこうなった」
「ほうなんやいいわけかくかくしかじかいぬころころころどんぐりひろたかそれでそうかいようもゆうた」
「パチンコには行ってないで」
「ちゃんとわての顔みてみい」

と言いかけた矢先、ばあさんの目がメラメラとかがやいた。
「その犬、ベソベソくんとちがうか、そうや、ベソベソくんや。知らへんのか、携帯のCMに毎回とうじょうしとる芸能犬、え~とハードパンクやったか」
「わしゃ、わからん」
「あんた、とんでもないことしてくれたがな。どうみても誘拐や、ハードパンクいうたらまんぞう芸能やないか、こりゃただではすまん」

ばあさん、いきなりたたみのうえにあぐらをかき目を閉じた。しばらくして、
「よし、これでいこ、あんたその犬もって奥の間から出てきたらあかん、わてがよし言うまではな」
呆気にとられたじいさん、
「おまわりさんに届けたほうがええんやないか」
「ちゃんとここにいてはる。犬のおまわりさんが」
と、自信たっぷりのようすじゃった。

「誰かおるか」
えらくいかつい声が玄関から聞こえた。
「はい、どちらさんで」
「どちらさんとはごあいさつやな、あんたのだんな、人さらいでっせ」
「犬さらいですわ」
「なめとんのか」
「そう、どらなんかてよろし、わてらは保護してましたんや、あんな人ごみにほっといたらそれこそ誘拐されます。で、おたくらに身代金だせ、そうなったら警察ざたを嫌うまんぞう芸能はさぞかしたいへんですやろな」
「なにをぬかしとる、ええからはよ出さんかい」
「あんたでは話しにならん、社長を呼びなはれ」
「なにをほざいとんじゃ、痛い目にあいたいんか」

「まあ、待ちい」
ぬっと面をあらわしたのはどうやら社長らしい。
「しかし、こんなやつらに」
まんぞう社長はおもむろに名刺をさしだし、
「えらい、うちのベソベソがお世話になりまして」
「いいえ、そちら様のたいせつな飯のたねですから。それはそれは気をつかいまして」
すると先の若いもんが、
「なんじゃと、社長に向かって」
「おまえは黙っとれ」

わんわん、さすが芸能犬、飼い主の声にこらえきれず障子を突き破って突進してきた。
「おお、よしよし、ほらこれを着なさい」
ああ、それこそテレビでおなじみの赤いマント、そしてじいさんもこっそり出てしまった。
「あっ、さっきのソフトクリーム屋」
「そういうわけでんのか、たいそうな芝居うってからに。若いもんにぼったくりさせて、あげくはこれでっか」
ばあさん、目がすわってしもた。
「気にいった!あんたはん、どや、うちの芸能プロからデビューしませんか。これはとりあえず手付け金ですわ」
ベソベソくんの羽織ったマントと同じものに包まれた札束がどさり。
「一千万あります。あとは契約してからで」

「い、いっしぇんまん、、、じいさん、あんたやっぱり役にたつなあ~。盆と正月が、それにクリスマスも一気に百回きたがな」

ばあさんインフルエンザの熱でうなされながらも、夢だけは捨てなかったそうじゃ。