美の特攻隊

てのひら小説

ペルソナ〜8

「驚かれたみたいですね。ひとまず少女の件はそれくらいにして、いえ、取り急ぐわけじゃないのですけど、別に時間がないとかではなく、息子さんの関わった事実もわかりましたし、何よりあなた自身が恥辱から抜け出せないご様子に見えておりますので、こう言っては失礼ながらまるで懺悔を聞いているようで少々耳が痛くもありまして、磯辺さんは、切り出しとしてその辺の事情からお話されたかったのでしょう。
だとすれば偶然ながらそこのところを綿密に掘り下げてみたいのは山々なのですが、私の場合はあくまでも確認作業として瞑想を行ったわけなのです。
結果はどうかまだ予断できませんけど、あなたは決断された、、、いやこれは夢想でしょうか、ともかく能動的な方法だったと思うのですが、お話しの夜の川の場面に行きつくのですね。
当然そのときの意識に、いえ無意識なのかも知れませんけど、、、私の名前も含めまして、ある符号を示していると云う因果が見いだされます。

しかし磯辺さんが先程おっしゃられたように、少年時の記憶装置が自動処理的な判断を下し、さらには三好荘で目に留めたペナントから受けた印象を拡大して、ご自分でも私を訪問する以前に色々と下調べしておられるではないですか。
つまり申し上げたいことはこうです。
磯辺さんと私の不可思議な能力がどこかで結びついた成果が、現在あなたの抱いている疑問に直接お応えしているのだと導くのは早急でして、たしかにご存知のように私は超常現象などを研究しておりますけど、すべてを神秘一筋で解明させようとは考えていないのです。
あなたのとられた演繹的な立場が、あくまで科学的もしくは常識的であるのと同じく、私の立場も闇雲に現実から逃避することを一番の方便とは認めていませんから。

そこで、これは私の意見なのですが、符号が匂わせる直感はひとまず脇に置き、と云いましてもそれらは無視できない可能性を秘めてますけど、、、これはあなたにとっての大事な問題でもあることですし、これからお話させていただく姿勢と云いますか態度ですね、そこに透徹した学術主義を援用したいのです。
なにも私に限ったことではありません。磯辺さんご本人が学者じゃありませんか。
その上で未知なるもの、まあ、この言い方にも語弊がまとわりつくふうに聞こえますが、つまり了解項として一致を得ない場合、心理的要因においても糸口を見出せないとき、そう云った領域では窺い知れない何かを察したときに、私なりの見解を述べさせていただきたいのです。
ええ、もちろんあなたの専門分野は総動員して頂きたく思います。

私は長い間ほんとうに不遇だったのです。
もっとも自分勝手な解釈にこだわり過ぎた天罰みたなものなのですけど、、、だからこそ、こうした縁を慎重に扱いたいのです。
とりあえず一方的な意見を述べましたけれど、おそらくあなただって神秘主義者の陥りやすい仕掛けはご存知なはず、、、あっ、そうですか、そう言って下さるのはとてもこころ強くもあり、さすがだと敬服してしまいます。
いえいえ、心底そう感じたままです。この場でご機嫌をとる必要もないでしょう。

では手短かに私からひとつの提案がありますのでよろしいですか。
お話しから察しますところあなたは私の妹、はい美代に関することです。
ああ、そんなに恐縮されますとかえって私の方が困惑してしまいます。いいのです、あなたの知りたい謎の一部がそこにあるのを決して不快な思いで受け止めてはいませんし、方法的にもそこから始めるのが理にかなっていると信じているからなのです。
まず事件の最後から進めていこうじゃありませんか。
金田一耕助って知ってますよね、はい探偵小説の、映画、、、そうです、そうです、映画でもそうなんですけど、大団円を向かえる間際になると決まって金田一探偵は、事件現場とは一見深い縁故のなさそうな土地へと足を運ぶのですが、そこで必ず今回の一連の事件の鍵になるものを持ち帰って来ます。
だったら最初とは言わないけど、ある程度の段階で早々に腰をあげればこと足りるのでは、そう思いたくなるのやまやまで、、、しかしそれは所詮フィクションの世界においてです。

もうお分かりでしょう。わたしはあなたの疑念やら悔恨やら尊厳やら、感情を含む一切合切を謎解く、探偵と自分自身をほぼ同一視しているのです。
いいえ、冗談でも悪ふざけでもありません。そうでなければどうして身内による事件である美代のことから始めなくてはならないのでしょう。
そうですか、いきなりこんな言い方はたしかに妙ですもの、いやあ、ごもっともです。
では、こうつなぎを差し出しましょう。
磯辺さん、あなたは近いうちに美代と会うことになるはずです。
これは予言なんかじゃありません、申し上げたはずです。学術主義を援用させましょうと、あなたは探偵である私とは別な角度で、そう、まったく異なる角度で実地調査に携わることになるのです」

 

 

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