美の特攻隊

てのひら小説

恋する恋

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額装におさまったふうな横顔を日に何度も思い起こしてしまうので、美子は仄かな水彩が少しづつ塗り重なってくる感じを胸中にとどめておこうと努めた。振り払ってしまうには頻繁過ぎるし、向こうがわに浮上する面影をとりたてて不快とは思わなかったからであった。
むしろ懇意な男性も交際相手もいない身にしてみれば、華やぎを代行しているようなときめきがやわらかな光にそっと包また情景を思い描き、ちょうど空模様に即したまなざしが揺れ動く、こまやかな生彩を育んでいた。
ところが美子にその横顔から想起される特定の人物を探しあてることは無論、少女の時分ひそかにあるいは友達同士で喋りあっていた歌手や俳優にあこがれた陽気な場面に重なることもなく、おぼろげな回想もよみがえってこない。
あとは美術館か画集で見知った印象じゃないかと意識をめぐらせたのだったが、不意にその詮索めいたな物腰から後ずさりしてしまった。
出来事の実情が常に居座るのであれば、どこかで願いなり欲求なりもしくは蔑みなりを抱くであろうし、うらはらにありありと映りこむ身勝手によって強度の反撥が生じているかも知れない。
たしかに胸のなかでは淡麗な味覚をなぞったような風合いが彩度を募らせ、日毎に移りゆく天候の明暗とも調和しかけて、仕事のさなかや大事な会話の途中に割りこむ横顔に対して違和を覚えることさえ熟知していた。が、色調に濃淡の気勢を認めるかぎり、逆に隠された情念は虚しさを糧に身のまわりから生気を抜き取ってしまう。
あたかも原色を授けられた風船に思いきり息をふきこんでしまえば、淡い寂しさが生まれてしまうよう、そして破裂寸前の小胆を代弁したかのふくらみは、どこかよそよそしく熱意とは距離を置いた彩りに満たされている。
これを美子の心情に結びつけてしまうのは当然ながら酷で、たとえば奏楽を背景に空高くのぼってゆく大量の風船などではなかったし、額装一枚の裡に隠顕する男性の横顔に翳る表情の由縁を味到する意欲を持ち合わせているのか、やや曖昧であった。
見知らぬ異性、好奇に寄り添った実際は自覚出来ても、肝心の恋情がこころの壁にも、あたまの襞にも絡んでこない。ただ縁起かつぎをわずかほど信じた、星座占いに少しだけ惹かれた、手相をときおり眺めては思いついたとばかりに教本をむさぼる。そんな行いに別に罪があるはずもなく、美子の想いはことさら風変わりと言えないだろう。
ただ異性だけでなく気軽に友達と呼べる者もいなかったことが、横顔の醸す得体の知れない冷徹さを増幅させる結果に近づいてしまい、煩悶を招くと同時に、投げやりな感情の処理場を見つけだそうと焦りはじめた。
哀しみにひたる果断な暗所は別として。
そういえば額縁の素材や色つきは、大きさは、横顔に宿る意味合いをなかば放擲してしまう意想はかなめの面差しからの逃避ではないか、あえて暗所からこわれものを運びだす慎重な手つきに頼らざる得なかったのは、やがて定見に踏み入れたからであり、日増し深まる邪念と向き合う、ある意味選び抜かれた心持ちに支えられていた。
薄明に遠く眼をやる、あの醒めた外気と触れ合う肌の感触は忌まわしい意識の明滅を正面から受けとめる願いに帰順していた。
そして光線の加減が春の修羅をそれとなく伝えようとしている不遜な優しさをそっと胸元へなでつけるふうにしてから、
「きっとあの横顔は将来の花婿なのよ」
そうぽつりとつぶやいてみるのだった。