美の特攻隊

てのひら小説

青春怪談ぬま少女〜17

空腹だったのかな、いや違うわ、それほど食欲はなかった。ならどうしてなんだろう、食べもので釣られていないはずなのに。ヤモリさんの顔つきはあの優しい笑みを取り戻しているし、わたし自身の気持ちがあやふやなままなら、冷徹な目線はとりあえず引き下げ…

ニーチェの馬

青春怪談ぬま少女〜16

「地縛霊ってそれ、、、」わたしは挑むような目つきで先生の顔をうかがった。「志呉さん、あのね、さっきもお話した通り、あなたはすでに霊なんだから、その言い方は少し変だと思います」「じゃあ、人間を人間って呼ぶのもおかしいのでしょうか」「人間は生…

Presence

青春怪談ぬま少女〜15

着席とともに授業がはじまる。薄霧に被われたような沈黙が教室全体をゆるく束ねだし、わたしは貯めおいたつもりだった余裕をなくしてしまった。そんなもの元々あったわけじゃない、なんて自己弁護してみても粛然とした空気は時間にブレーキをかけたのか、微…

薮の中

今週のお題「人生に影響を与えた1冊」

青春怪談ぬま少女〜14

学校の廊下ってこんなに静かだったかしら。今はわたしと先生だけだからそう感じてしまうかも、しかし実際には人数の問題ではなくて、これは変かも知れないけど何者かがこの廊下を、いや、おそらく教室を学校全体を制圧しているような気配がする。管理者らし…

彼岸過迄

青春怪談ぬま少女〜13

燦々と降り注ぐ太陽、まぶしそうに目を細めたりしてみる。朝食をすませ身支度を整えたわたしは、いつも迎えてはちょっとだけ背伸びする朝のように玄関をあとにした。見送りのヤモリさんは口ぶりのわりには淡々とした態度で、もっともこのひとはそういう気質…

恋のエチュード

青春怪談ぬま少女〜12

今日一日はもう語らなくていい。あっ、違うんです。取り澄ましたふうな口調ですけど、そんなに覚めた感情ではありません。始まりの一日だからとても大切なのは承知してるし、気構えだってちゃんと備わってます。それに家のなかを隅々まで探ってみたあげくの…

秋刀魚の味

青春怪談ぬま少女〜11

封筒をビリビリじゃなくそれはそれはありがたくね、といっても実際は震えつつ開封しました。読んで話すほどのことでもないんだけど、、、明日から登校するよう、遅刻は厳禁、きちんと制服を着用する、あれこれ質問しないなどという事務的かつ高圧的な文面で…

東へ西へ

青春怪談ぬま少女〜10

世界の豹変に目を見張り、感動にひたっているのは素晴らしいことだけど、お腹がへっていてはままなりません。うっかり忘れていました。昂った気分にも限界はある。こう言うと身も蓋もないですが、裏返せば限りある感動にふたたび出会うには日常の連鎖を排斥…

眠れぬ夜のために

青春怪談ぬま少女〜9

コンパスの矢は精確な位置をしめしている。目的地をさとす使命を担ってるわりには、小さな手のひらにおさまってしまう頼り気のない丸みと軽さだった。けどその軽さがわたしの足付きをハラハラさせ、緊張にはばまれながらも優美で不遜な意識へと先走りさせて…

季節の記憶

今週のお題特別編「はてなブログ フォトコンテスト 2015夏」

青春怪談ぬま少女〜8

悦ばしき知識ですね。ミミズくん、きみのお陰だよ。「付随するもの」そうか、あれはすでに認識されたことだったんだ。ときおりよぎるランダムな語句を見捨ててはいけません。わたし自身見捨てられずにすみましたから。ともあれ、なかなか立派な革張りの二つ…

ひぐらしのなく頃に

青春怪談ぬま少女〜7

「花に嵐のたとえもあるさ、さよならだけが人生さ。だからよくお聞きなさい。もう会うことはないのだから。あんたが家へ向って歩き出し、途中で忘れものをした素振りでここに戻ろうともそれはあり得ないと言えば、どうかな。奇妙に聞こえるだろうか」なまず…

花の宴

青春怪談ぬま少女〜6

とりあえず客室になるのかな、なんか物置き部屋って呼んだほうがしっくりするようだけど、気遣いなのかひがみなのかわからなさに我ながら嫌気がさして、しきりに恐縮がっていたカエルおばさんの面持ちがまぶたの裏にしみこんだころにはもう意識は薄らいでい…

太陽がいっぱい

青春怪談ぬま少女〜5

水底はなるほど水底なのね。てくてく歩いたつもりでもときおり地に足が着いていないような、浮いた感じがする。そしてカエルおばさんの、「ほら見えてきたでしょう」この一声ですっきり背筋が伸びて眼球は遊泳しはじめた。たしかに建物が見えたわ、ぽつんと…

青春怪談ぬま少女〜4

時間はこれまでと同じでよどんでいたけど、ところどころ透明な感じが胸に入り込んできたから、ひどく沈滞しきっていなかったみたい。すでに水圧の作用なんか身体から離れているし、沼底は陸地と変わらない居心地に落ち着いていたわ。あくまで無心に近い場合…

想い出の夏

こどもの時間

青春怪談ぬま少女〜3

「もう立派な幽霊だよ」えっ、誰がつぶやいたの。独り言じゃないわ、たしかに耳もとへ届いた。優しく厳しくもあるような、それから不気味さがしっかりまとわりついている。仕方ないのよ、時間をとらえるのだってあやふやだし、おまけに記憶があちこち散らば…

GO