おやすみ
静かね、もう雨はやんだのかしら。
風の音もしない。まど開けてみようか。あら、どうして、そう、じゃあ開けないわ。
過ぎ去ったから、いいの。
ちゃんと答えてよ。わかったわ、そうね、明日はきっといい天気になるのね。
夜はいつものように張りつめた糸をあやつり、溶け出した大地に幕を張り、月明かりと風向き、そして、またたき始めた星たちへ目配せを送りつつ、闇を演出していた。
眠れるひとびとの吐息に忍び寄る影は、からまった糸くずに似たちいさな蜘蛛を想わせて、沈み込んだ音のうえに水滴がしたたるよう、夢はとぎれとぎれに綾をつむぎだし、新たな音像をそっと産み出すのだろう。
鼓膜へもたれかかる小人と、虹彩に棲む妖精が目覚めれば、羽ばたきをまねた蜘蛛のすがたに軽やかに導かれ、幽かな気配はやがて一条のひかりと共に大きく飛翔してゆく。