美の特攻隊

てのひら小説

バンビさんとちび六

さむさむぴゅーぴゅーそとは木枯らし、うとうとスヤスヤおねむがたりないのかな、とろとろぬくぬくハイハイはってあちこちどちらへ、きゅっとまるまり又らいねん。
いえいえ、まだもうすこしよ、ちび六、冬眠するまえにおもいでぴかぴか、きぶんツヤツヤ、そしてみなさんにごあいさつね。

 

「だれよ、まだお昼まえじゃない、まったくもう休みの日くらいふて寝させてよね」

おやおや、おねえさんふきげんですね。でも今にはじまったことじゃないですから、あっ、ないしょないしょ。

「わたしよ、寒いんだから早くドアあけてくれない。お客さん連れているの、聞こえてる」
「聞こえてるわよ、なにさ、電話くらいしてちょうだいよ」
「電話したけど、出ないからわざわざ来たのよ、どうせ留守番なんでしょう。待たせたら失礼じゃない」
「えっ、なにそれ、あんたひとりじゃないの、ちょっと待って」
「何回も電話したの、文句いうひまあったら素早くしてよ。寒い寒い、説明はあとあと」

おねえさん、ねおきのすっぴん、あたまもじゃもじゃ、気分もやもや、でもそとの冷気はよくわかっていたので、しぶしぶ玄関へ。ふといやな予感、いったい誰かしら、まさか記憶の薄れかかったあの合コンの、、、

「じゃ~ん、こちらえこさん、知ってるわよね」
おねえさん、思わずよろめき、ねむけもふっとびました。
「もしかしてバンビの」
「どうもはじめまして」
ショートボブがさわやか、ぐるぐる巻きのパッチワークマフラーに小顔、すらりと背が高い。
「いったいどこでどうなってるの」
「まあまあ、くわしいことはお部屋で、あんた、目さめたでしょ。えこさん、どうぞむさくるしいとこですけど」
「はあ、むさくるしいですけど」
ぼうぜんじしつのおねえさん、とりあえずスリッパをそろえました。

「で、そういうことなわけ」
「そういうこと、、、ね」

なんでも、おねえさんのともだちはマクドナルドの駐車場で車からおりて、深呼吸しているえこさんを見かけ声をかけたそうなのです。
それはほとんど勘に近かったというからおどろきですね。
「なんであんたが面識あるのよ」
「わたしはてなブログやってるでしょう、バンビのあくびの読者なわけ」
「そんなことはじめて聞いたわよ」
「あれっ、まえに話さなかった」
「知らない、聞いてない、わたしもやってるのよ、バンビはバンビよ、おなじ県民なの」
あれあれ、おねえさん、あたまがこんがらがってきましたよ。
「とにかくそういうことだから、思いきって寄ってもらったんじゃない」
どうやら、ともだちはおねえさんをひとあわ吹かせてやろうとかんがえていたみたいですね。
「すいません、すぐ帰りますので」
「あっ、なんのおかまいもできなくて」
冬のドライブ、家族をのせた車をちかくにとめたまま、わずかのじかんでした。

「ところで、ちび六はどこにいるのでしょう」
「えっ」
これは困りましたよ、えこさんはおねえさんのちび六シリーズを読んでくれているのです。
フィクションだなんて思われたら、もう永久に官能作家になりさがってしまいます。
「この時季はですね、たぶんふろばのすみっこに、あっ、探してきます、呼んできます」

ざわざわミシミシばたばたカタコト、とっぷうがまいこんだのかなあ。ゆるゆるハイハイかさこそのんびり、てんじょう裏からひそかなぬけみち、なにやらさわがしいぞ、ははあ、おねえさんのともだちだなきっと、じゃあ、いつものようにめんるいをふるまうのだろうか、はてさてあれこれハヤハヤ、ちび六のからだに元気がみなぎってきましたよ。
めんるいだけではありません。きゅうじつの来客のふんいきがとてもしんみりここちよかったのです。

「そこの台所ですか、夜食に三方の礼」
「そうなんです、夜食の執念はすさまじいみたいですよ。儀式だなんていってるくらいですから」
「なにやら秘密めいてますね」
そのときでした、えこさんの視線がすっとうえにむかい、
「あっ、あそこに、あれそうじゃない、ちび六」
ともだちも目をこらし、
「そうそう、いました、あのはえとりぐもが」
えこさん、ソファからたちあがり目線をそらさず足音をしのばせるように近づいていきます。そしてとてもちいさな声でささやきました。
「逃げないで」
おねえさんはあわてて出たまま戻ってきません。動揺したのでしょう、この部屋の暖房をいれ忘れています。
今日はいつにない寒気、ともだちが気をきかせさしだしたほうじ茶の湯気はしろくけむり、吐息さえおなじ想いをひめているようなしずかな気配がかんじられます。

ちび六がぎょうてんしたのはいうまでもありませんね。まったく見知らぬおねえさんがじぶんのことをじっとみつめているのです。
そのきょりは縮まるいっぽうなのに、みじかにせまったくうきの色はなにかおだやかなふうあいを思わせ、ふかい眠りのせかいのようなふたしかなひかりに包まれて、ゆっくり遠のくながれ星のかなしみをせおっています。
もちろん、ちび六はえこさんのことをわかりません。しかしぐるぐるまきマフラーのふんわりしたかんしょくはつたわってきます。
「ぼくもぬくもりのくにへ」
本能とやらでしょうか、きびしい越冬にきせつをかんじ、そのこころはゆるやかな傾斜をもとめてやまないのです。
そのときでした、えこさん、おおきく右手をふりあげました。ちび六はべつの本能をかどうさせ、スルスルはいはいドコドコたいへん。

でもあんしんしてね、ちび六、えこさんはバレーボールのアタックのしぐさをみせただけだったのです。まるで弧をえがくようなしなやかさ、まどからさす冬の陽にふれているみたいでした。
そこへおねえさん、けっそうをかえてバタバタ、
「あれ、どうしたんですか」
すると、えこさん、
「ちび六つれて帰ろうかしら」
おねえさんとともだちがずっこけた拍子に、ちびは六ポタリとゆかにおっこちてしまいました。

あとのことは、ほうじ茶の湯気におまかせしましょうね。

 

 


えこさん、今回はありがとうございました!
こちらが出演を快く引き受けていただいた、えこさんのブログです。
等身大の本人に出会えます。

 

 

 ちび六シリーズ