モノクローム 2013 - 2017
夢の光景にはいつも幽かな調べが流れています。
どれほど急展開しようと過剰な乱れが生じようとも、薄明への思慕から遠のくことができないように、自然の理はおののきを袖に含みながら、とても穏やかな威厳を醸しており、それは不吉な予兆さえ、あらかじめの了解に委ねられているのか、ある純度が保たれ、静謐なまなざしを投げかけては、足場がゆるやかにさらわれてしまう恐懼から逃れる術を持ち得ません。
夜空へおぼろに浮かんだ森の闇は、月明かりを忘れてしまったのか、胸の裡に去来するのは夢特有の焦燥のみで、色彩をもたない情景を語る言葉は不断に吃音へと導かれてしまい、はたして誰に対してたった今、遭遇した魔物たちの跳梁を説明しようと努めていたのかさえ判然としないのです。
あいまいな夜の稜線がそうであるように、魔性の棲家も明確な位置をしめしてはくれず、ただ漆黒にとけあった電線の連なりがひどく端的な例えに結ばれる様相を呈すると、これより先からは夜鳥たちの領分に同じく、不穏な影が落ちてくることはないはず、そんな想念はおそらく間違っていないにもかかわらず、なぜか安堵の訪れを知るよしなきまま、領空権に守られているふうな錯誤に後押しされ、ただひたすら背後の邪性について見たまま喋り続けるのですが、それは不毛そのものなのか、もつれた舌先に意味は乗り入らず、かたくなに言葉は出口を見失ってしまいます。
夢の世界に臨在しながら言語をあやつる技は残念ながらあり得ません。
それはちょうどモノクロームに華やかな色相を見出し、物語るジレンマに首肯せざる意識へ収斂されて、艶めいた彩りとは異なる言語体験へ向っていく諦観に等しく、かといって失望などにはまるで無縁の情調にひたればいい、そう感じるばかりなのです。
今回の作品集は過去記事と未発表写真、そして撮りおろしで構成されています。
夢のひかりを持ち帰りたい悲願はさきほどの語りで氷解し、そしてあたらなせせらぎに耳を澄ましたいと想うばかりなのでしょう。