2014-07-01から1ヶ月間の記事一覧
麻希や森田らの親しげな会話は、更けゆく夜の気配を招きいれたとでも云うようにして、十分に明るい店内へと忍びよった微風の如く、一層こうして対座している場面を、テーブル上に運ばれている各自の飲み物や料理の並び方を、それとなく意識させる、あの読点…
この季節を感じることは、もうすでにあきらめにも似たやるせなさで上着を脱いでしまっていると云う、そもそも夏着に裏地などと辻褄の合わない道理をあてがいながら、ほどよく袖が抜けていく気楽さと遺憾を途上にて受理する風趣にあった。安閑としているのは…
「ねえ、前にどこかで会ったことあるような気がするんだけど」「そんなはずないさ、純一くんはこのまちに来てから日が浅いし、どうして麻希ちゃんが知ってるわけ」早すぎるのでもなく遅すぎるのでもなくふたり連れが現れると、純一はすでに酔いが全身をまわ…
待ち合わせ場所の公園付近まで自転車を走らせた純一は、夕闇がひろがりだした敷地内を覆うよう茂る木立の影にひとり佇み、携帯を操っている森田の姿を一目で見てとった。「あっ、森田さん早いですね」と自分も時間より早めに来たつもりだったのに以外な先手…
翌朝には初々しい陽光がこのまちすべてに降りそそいだ。もっとも純一は昨夜はなかなか寝つけないく、いつの間にか眠りおちたのかと思えば、うつらうつらと意識がさまよいだし、夢見なのかこちら側での感情のこわばりなのかよく分からないうちに夜明けを迎え…
それから幾日か哀しみに想い馳せることなく、夜気を迎え入れては白々と煩悶を刷くのだったが、そんな虚構のうちに循環している情欲がいつまでも平穏に保てるはずがなかった。ある大雨の晩のこと、地面を叩きつけるような雨脚と樋をつたう激しい水流の為、い…
純一の儀式はこのまち赴いたその夜から再開された。いや、儀式などの形式ばった天井を吹き破った、無礼講による解剖室の祭典と呼んだほうが実質に近い。ならいっそはっきり「自慰」と言えばよいものだが、曲がりなりにも少年には少年の美学が息づいていた。…
純一の舞台は、こうして予想外である朱美の出現によって早々と崩壊しはじめた。もっとも、崩れだしたのは外壁であって、中心部に宿った暗室の天蓋は淡く差しこむ月光の親和に守護されていた。 三好の家で育った朱美は、後日運ばれてきた自分の荷物をひもとい…
想い出のなかに保存されていた朱美のイメージは多少の華飾でくるまれていたのだろうか。それは二十歳そこそこで結婚すると云う初々しさが前置きされていたこともあり、また少年期なかばの、釣り合い人形のように不均衡な安定で起立している目線でしか判じる…
純一のめざめはすぐそこまで近づいていた。このまちで暮らしていることが奇跡なのではなく、このまちそのものが奇跡なのだと、少年のこころに疾風が吹きこみ鮮やかな波紋が大きくひろがって、足もとを潤沢にさせた。この世のなかに息づいている実感をこれほ…
奥手と云えばそうであった、彼女と知りあったのはほんの一ヶ月まえ、まったくの偶然による、しかも指向する自然を背景とした純一にふさわしい出会いだった。生まれて初めて女性の素肌に張りつめた欲情をもって触れたのは、このまちに来てから日数も浅い、空…
あのとき純一は、母が並々ならぬ野心家の一面に近いものを覗き見たに違いないだろうと不遜な推察をしてみた。翌日、今度は父から「これで結着にしよう、おまえの意志は固いんだな」そう問われるままに、「うん、かわりはないよ、とりあえずあのまちに一度行…
賭けは限りなく現実味を帯びて、本人にも自覚されない眼光に付随した牙の先端は、純一の決意を等身大以上に物語っていた。出来る限り必要以上の機器を身のまわりに備えることをは避けようと誓った。車とパソコンはあえて持たないことで、行動範囲は限定され…
誰だい、カブトムシとクワガタを取り替えっこしようなんていったのは。「へい、あっしでござんす」「時代劇とは関係いたさん、かような物言いは妙ちくりんであるぞ」「おたくの口調もだいぶ古くさいですな」「なんとでも申せ」「なら交換しましょうや、ほれ…
ぽかぽか陽気でねむねむめざめ、ハイハイはってカサカサスイスイ、あれっ~床がいやにしけっていますよ。おてんきゴロゴロザーザーあめあめふりふり、おひるすぎはたいようギラギラ開いたまどからヒュ~とさわやかな風がまいこみました。ちび六はうきうきそ…