2014-06-01から1ヶ月間の記事一覧
生来の方向音痴をあらためて実感することは、心情的な揺らぎに即するところもあるだろうが、嘆かわしさの当てられている皮膜を伝う振動に冷や汗は生じず、むしろ鋭角的な意識が見知らぬ領域へと散漫に、そして逼塞した気分は首輪を解かれた犬のように、無心…
夕暮れ、気まぐれ、所在なし、ほろ酔いにまかせておいた狭い庭を見遣る目つきは空を切ったまま。耳朶に届いた鳥の鳴き声、さながら障子紙に浅く鋭く砕け散る。カラスの群れが山へ帰るのなら、そろそろ杯を置き、重い腰を上げよう。昨日までの長雨、庭の片隅…
きっと暗雲を呼び寄せるに違いない、そんな不安気な心持ちをぬぐい取るように、曙光を思わせる明るみが地面まで落ちひろがったとき、初めて私はまちなみの彩りに染め上げられた。「すぐそこってどのあたりだい」「すぐはすぐよ。だまってついてらっしゃいな…
前作にて、わたしの掌編小説はちょうど百編を数えることになりました。この記事のタイトルはもろ川端康成先生を意識しておりますが、先達の内容、質において到底比肩すべきであるはずもなく、ただ躍起になって書き連ねた末に数だけ合わせることが出来たとい…
赤い目のうさぎさん、、、ぼくは寝言でそうつぶやいたそうだ。他の色ではだめだったのだろうか。ささいな事だが、うさぎの世界では重要な意味を持っているのかも知れない。むろん、きみにそんな質問を投げかけたりしなかった。ひょっとしたら顔を近づけなが…
遠慮勝ちな態度で筋書きに従ったつもりだった。そして途中、もうひとりの自分が語り聞かせる入れ子の情況もそれとなく察知することが出来た。女はまだ若く、自分より年下に見える。そう覚えるのが符牒となり、あるいは己の所感がまだ交えぬ肉体をはさんで、…
今にも通り雨が落ちてきそうな曇り空の下、山腹にまばらと立つ民家のなかでもひときわ目につく、一軒の黒塗りの門構えを前にして、封書のようなものをその屋敷に届けなければと、配達人の風体でありながらどこか逡巡している自分を意識していた。しばらくす…
今は昔の新しいこと、うららかな春の陽気にさそわれ、と言いたいところだけんど、ひがな一日なにをするでもなく家のなかで寝ころんでおった。じいさん、ばあさんそろってじゃ。あんまり退屈なんでどちらともなく声をかけた。「きょうは何曜日かい」「カレン…
翌日、家内が純一に電話をしました。意気消沈な息子の様子に胸が痛んでいる様子は十分に理解していながらも、今回のことは家内の耳にしてみれば突拍子もない事態には間違いないはずですが、初恋の沸騰とでも片づけられてしまう程度のインパクトしかあたえて…