2013-11-01から1ヶ月間の記事一覧
そのときようやくNさんは口角を上げた。 実験に魂を捧げてきた学者が見せる至情の笑みだった。決して人懐かしい笑顔ではなく、どちらかと言えば月影に照らされた能面の放つ、妙えなるひかりに似て光線を追いかける勢いで訪れた一陣の風に乗り、幽かな笛の音…
仔細はまず相当なとまどいを隠しきれないという心理面からの推察、次に宿泊飲食に要する貨幣の問題、現行の通貨は過去では使用できないだろう。 残念ながら聖徳太子のお札は手もとになく、これから調達する間もない。急いで思いつき引き出しの奥から五百円紙…
「これが私の開発した丸出号です。一見普通の椅子に見えるでしょうが、そもそも時間軸を越えるのに仰々しい仕掛けなど必要ありません。こうしたシンプルな形状こそ最適と言えます。疑ってますね、心配入りませんよ、ここに腰掛けて催眠術なんてまやかしなど…
真夜中お好み焼きを作ろうとして冷蔵庫を開けたら卵がなくて悲嘆にくれていたのだが、無性に腹が減ったので焼き飯にしようと考え直してみてもやはり卵がなくてはしょうがない。 そこでキャベツと紅ショウガだけのお好みに戻って、せめてソースだけはと、ウス…
白ワインの冷たさは格別だった。 純一は三好からすすめられたビールをひとくち飲み干したあと、いつにない酔いが全身を巡ると云うよりも襲ってきて、体調を崩すか寝込んでしまいかねないと思い、それ以上は杯を重ねないまま、ぼちぼち打ち上がりはじまりだし…
今から43年前の今日、三島由紀夫は自衛隊市ヶ谷駐屯地にて、総監室を占拠、バルコニー上で演説を要求。直後、割腹自決を遂げた。 過激な政治的行動として、また暴挙として事件は一般に流布されている。 有名作家の壮絶な死は、各方面に尋常ならざる衝撃を…
不断の満ち欠けを気に留めることもないまま、夜道に日は暮れないなどと、健気に、そして眠気を多少こらえているような心持ちで歩いている。 稜線は夜空に昔話しを語りたいのではなく、今日一日の想いがまた過ぎ去ることを自愛をこめて切々と訴えているように…
長旅を期待しながら列車に乗りこむ風情は眺めるがわとて、ちょうど色づき始めた草花を愛でるふうに殊勝な心持ちへ傾くのだから、どうであろう、この身がすでに車窓のなかに座しているのであれば、それは景色が後方に流れゆくままにまかせた風の抵抗を関知し…
そりゃ夜目にも鮮烈だわな、白黒放送の頃テレビで観たおぼえがあるよ。たしか日本の番組だった。この間DVDボックスが発売されてたぞ。それより「事件記者コルチャック」全20話、ミイラ男もいいが、おれはあっちが気になって仕方ない。ホラードラマの金字塔…
鉄道の轍はどこまで行っても音響でしかないにもかかわらず、このように記憶の残像を呼び寄せてしまう加減は、、、祝福に包まれた光輝とも、災禍に圧しやられた苦渋とも異なる、がしかし、その双方を遠い彼方に想いかえしてしまう加減は、、、一体どこからこ…