美の特攻隊

てのひら小説

2015-03-01から1ヶ月間の記事一覧

約束

トピック「お花見2015.03」 - はてなブログ

ペルソナ〜43

「やあ、元気そうだね。あれ以来だけど、ごめん、連絡しなくって。去年の夏はいろいろありすぎたせいかな、寒さはけっこうきついよ」いまにも粉雪が灰色の空から舞い降りて来そうだった。純一はダウンジャケットのファスナーをしっかり引き上げる仕種をした…

背中のコード

ペルソナ〜42

孝之の悲願は見世もの小屋に遊ぶ心理と比べてみてどこも遜色がなかった。初秋の午後を吹き抜ける一陣の風に夢を託す。季節が人々を培う風景は凡庸であることから解き放たれ、ときには信じられないほど美しく輝く瞬間を秘めている。陽子の出現により挫折しか…

春と修羅

ペルソナ〜41

「それで三上さんは今こうして美代さんに会われたわけですか」孝之の声色にはあきらかにおののきが加わっている。「そのようですね。私は砂里に上手く先方にたどり着けたらメールで連絡するよう言っておきました。まさかいきなり直行されるとは考えてもおり…

春琴抄

ペルソナ〜40

「吸血事件で胸を痛めましたけど、募る気持ちは美代ちゃんとの想い出でした。時間というものは冷淡な流れですわ。あれから数十年を経た今では記憶こそ鮮明ですが、今現在のこころまで支配する能力は失われてしまい、残されたのは甘酸っぱい気恥ずかしさと、…

ある愛

ペルソナ〜39

美代の存在をあらためて間のあたりにする意識が逆巻き、孝之は夜の河で出会った夢の光景をふり返ってみた。とても長い道程を経て深沢久道の背後に、そのすがたを透かし見たような心境へ至ったはずなのに、実際の出来事とは無縁のイメージがわき出して、三上…

かいじゅうたちの春

ペルソナ〜38

固定された視線に輪郭が浮かび上がる。ドアのうしろにひとの気配を感じたのと深沢夫人が、「三上陽子さんという方がみえていますけど」声を出すのがきまり悪そうに告げに来たのはほとんど同時であった。美代のまなざしは動じない。純一と砂里はふたりして恐…

続・野性時代

ペルソナ〜37

かつて兄から好色の目で眺められ、淫靡な思惑さえ抱かした妹、美代。久道の告白めいた追想は果たして脚色が施されていたのだろか。血の繋がった兄妹にもかかわらず欲情のおもむくまま禁令を越えかけたと云う、不透明でいて鮮やかな幻影を張りつける物言い。…

風に語りて

ペルソナ〜36

日暮れ時に覚えるやるせなさはどこからやって来るだろうか。ぼんやりとした意識からわき上がる霧の彼方に目配せをしながら、胸のまわりを繻子で撫でつけられるような感触は歳月に関係なくこの身に訪れる。今もまた、同じ想いのなかにゆっくりと横たわろうと…

Never forget

『はてなブログに花は咲く』 ゆりら (id:Yuri-La0x7z)

行人

あれはそう、春一番が眠りのまろうどをかき分け吹き抜けた頃であった。なだらかな傾斜をもつ坂の下に古びた民家を見いだした。とくに用事があってのことではない、なにかしら胸騒ぎがするような気がして散策に出かけたまでのこと。目がかすんで見えるのはう…

花咲く乙女たちのかげに

肉体はたちまちに復元し、さらに新たな消耗にそなえている。 —マルキ・ド・サド

ペルソナ〜35

さすが兄妹だけのことはある、孝之は不穏な気分の狭間からけむりとなって立ちのぼってくる感興を覚えずにはいられなかった。美代は生前から兄を敬遠していたようだが、思考の方法は似通っているし、聞き手を引き込む話しぶりは生写しと云ってもよい。三人は…

鬼火

ペルソナ〜34

静かにドアは開かれた。二時ちょうどであった。泣きはらした目をハンカチで押さえてはいるが、哀しみのしずくはまだ枯れる頃合いを見定めていない。純一の手は砂里の肩先へこわれものに触れるよう、なぐさめを不透明にしてしまいたい想いからか、まるで小鳥…

空へ

ペルソナ〜33

親子が取り残された室内には不穏な気配も然ることながら、一種の空隙が特異な様相で現れ、あたかも大きくひろげられた断面図に阻まれたような息苦しさを覚えさせた。しかしそれは、見ることも、聞くことも、嗅ぎ分けることも、触れることも叶わず、真空状態…

何がニナを引止める

ペルソナ〜32

深沢の家が目前にせまったとき、孝之は期待と不安がうわずみで交じり合っている興奮を感じないわけにはいかなかった。さほど深刻ではない、もっと仄かに宙へ浮く現実離れしたような空気が身を包みこむ感覚。小学校の運動会で毎年憶えた即席の孤独感、遊戯の…