2014-03-01から1ヶ月間の記事一覧
恋するわたしは狂っている。そう言えるわたしは狂っていない。わたしは自分のイメージを二分しているのだ。 ―ロラン・バルト― この若き青年が不夜城をあくまで人工的な密林だと捉えていたのか、ただ単に夜の帳に同調する資本主義のデコレーションと割り切っ…
ああ、いつかの男だった、まえにあれは夜間飛行だときみに話したことがあったね。 実直そうな面構えに隠された卑猥な笑みは、通りすがりの刹那に生まれる魂胆に近く、しっかり届けられなくて、あとからじんわりぼんやり思い出せる程度だった、だからこそあの…
しばらくぶりに知人と酒場で落ち合った久道は、自分の髪が金色から銀髪に変化しているのを指摘され、 「なに、新月の夜に染め直すから脱色してしまうんだろう」と、生真面目に説明した。 凡庸とあしらいながら、常識では計りがたい相変わらずの言い草に知人…
うちのおかあさんに聞いたんだけど、小学校のときの給食がね、カレーだったんだって。ごはんじゃなくてコッペパンにつけて食べたそうよ。ええっ、うまそう、あっ、そうか、カレースープなんだ。ちがうってば、とろみのあるふつうの、じゃなかった、ああもう…
ふろばのかたすみに暖かなひざしがふんわりよどんでいます。めざめはのんびりでした。 ちび六のいちにちが始まります。カサカサスコスコハイハイはってピョンとひとっとびトーンとちゃくちでまたまたハイハイ、春はうららかですね。 きょうは何をしようかな…
「お元気、どれくらいになるかしら」 「ついこの間のようだけど、月日は知れないなあ」 少女の澄んだ瞳をのぞきながら青年はため息まじりの声で答えた。 「また霊界テレビなの」 「その通り、よくわかってくれたね」 「相変わらず酔ってお家に帰ると使われて…
ためらいの陰りなどなく抒情が整列し、探りはすぐさま目的に同化すれば、頬の火照りは風に熱意を吹きこみ、もはや自分の意志が率先してマントのはためきを買って出ているのだと薄ら笑いを浮かべた。 山稜から山稜へ、やがては歓喜と高まる情念に胸を焦がすと…
窓の外に雨音の気配を感じる。 はっきりとしてではなく、遠い原野に深々と垂れこめる景色が少しづつ、こちらに向かっているような淡い記憶をともない、散りばめられた光の粒を体内に含んだ雲翳が枕頭に広がっている。 瞬きを覚えないまま、残像が緩やかに浸…
寝静まった妻の微かな気息に耳を向けるまでもなく、昇は苦虫をつぶしたような微笑を浮かべている自分を思い、消え入りそうな予感に深く沈みこむのではなく、反対に暗幕でさえぎってしまった。 暗幕の内側に息づくものを映像が終了する案配で拭いとることは出…
今は昔の新しいこと、こころもとない年金でのパチンコ帰り、とぼとぼとじいさんが歩いておった。 「春やのにまだ寒い、なんか腹へったなあ~、おっ、ちょうどええところにうどんの屋台あるがな」 風がぴゅ~っと通り過ぎていった。じいさんは身震いしながら…
我が胸奥に仕舞われたるまこともって不可思議千万な一夜の所行、追懐の情に流るるを疎めしはひとえに奇景のただなか、夢か現か、ようよう確かめたる術なく、返す返すも要職の重しに閉ざされたれば口外厳に禁じられたるところ、斯様な回顧もまた御法度なり。 …
路傍の黒衣がきっと符牒なのだろう。夕暮れを取り急いでいるような婦人のすがたにふたたび出会った。 あれからの日数はしれていたけれど、犯人と目された松阪慶子似の悽愴な死は、限りない青みを帯びて網膜に焼きついているに違いない。 なぜなら澄んだ空気…
くもり空の下、近所の奥さんが颯爽とした着物すがたで道を横切るの見かけた。 年相応なのだろう、喪服を思わせる青褐の和装はまわりの空気を一変させているが、凛とした容姿から受け取る印象は反対に無邪気な風情も備えており、それとなく感心していると、す…
むかしむかしと言うてもみつきくらいまえだったあ、えっ、そりゃ、むかしじゃねえじゃと、んだな、ふかしふかし、、、なんだべ、じゃまするでねえ~、とにかく、おじいさんとおばあさんがおったそうな。 ほかには誰もおらん。まんがに出てくるようなのどかな…