美の特攻隊

てのひら小説

2014-04-01から1ヶ月間の記事一覧

ADORO

恋の十字架〜16

「どうして僕ではなく、社長だったのか、これが臭いものにふたをし、互いに不可侵をうたって来た証しなのか、、、僕が自覚していた葉子に対する直情に見えて屈折した恋慕は、隠匿するまでもなく、はなから彼女にお見通しだったのです。 結果、苦境のただなか…

ナカヤマ

恋の十字架〜15

「いつもと違うためらい勝ちな葉子のくちぶりと神妙な態度は、かなり複雑な思惑の到来になりました。 砂塵が突風に煽られて形状を地にとどめないように、すべてを失いかけている葉子の胸のなかと同じく、二度ともとには戻れないというあきらめを、今は自覚す…

てのひら

恋の十字架〜14

「僕は若かったし、自由奔放な世界のなかに生きていたと感じていました。毎日の会社勤めであくせくしていても、煩わしい人間関係に縛りかけられていたとしてもです。どうしてかって、それは未来という時間がまだまだ前方にひらけていて、余裕たっぷりだった…

失われた時を求めて

恋の十字架〜13

「僕はあのとき平静をとりつくろうとしたのですが、相当動揺していたと思います。葉子がどれくらい涙していたか、とても長かったようにも、ほんのわずかの間だったのかもよく覚えてないくらいですから。 というのもそれから彼女が語りだしたことが、自分の予…

キャンディ

恋の十字架〜12

三階の一番奥、部屋の前にならぶ姿でふたりしてドアを開ける。 実際には清也がややぎこちなく上着の内ポケットから鍵を取り出し、弁当の包み袋とハンドバックを手にした葉子を中へと促した。ふたりしてこの部屋から歓待を受けたのだ、そんな思いがせり出す。…

ミュリエル

恋の十字架〜11

会社がある最寄りの地下鉄から二駅先まで運ばれ、続く乗り換え線で十五分くらい揺られ、降り立ったホームの改札から徒歩でわずかの距離に清也のアパートはあった。 これまで葉子と連れ合い電車に乗ったことのなかったのが以外である。この決まりきった路線、…

アパッチ野球軍

恋の十字架〜10

「人気のないところがいいわ。二人っきりで話したいの、清也くんのアパートがいい。食事は、、、ごめんね、何か手料理って思うんだけど、そんな馬力ないんだ。それにわたし料理へただし、お弁当でも買って行こうよ」 わずかに苦笑している葉子の目が今にも湿…

アンビシャス・ラバーズ

恋の十字架〜9

夕暮れの深まりが季節のなかでも減速してゆくある日、営業部と掲げられた社内の入り口付近で、かすかな肌寒さに微妙な安息を覚えながら、外まわりから戻ったばかりの小滝清也は、うしろから自分を名を呼ばれた。 ひかえめな声量だったので一瞬以外に思えたけ…

駄々っ子

恋の十字架〜8

もし無感動なまま衝動がわき起こっているのだとしたら、私たちは本能と呼ばれる不可解でとりとめもない奔放な激流のまっただ中に巻き込まれていることになるであろう。しかし、本能が跳躍する際に対して無感動の目配せしか送らないというのは、どこか不自然…

また逢う日まで

恋の十字架〜7

取り澄ました内心が微かに動揺する葉子の一瞥に、ほくそ笑む清也の微妙な期待が重なりあった。 「へえ、どんな曲かしら、清也くん、まえに音楽あまり聴かないほうだって言ってなかった」 「懐かしのアニメソングやテレビドラマの主題歌なんかは好きだけど、…

朝日のあたる家

恋の十字架〜6

暁光の恩恵に包まれる二人だったが、清也の慢心と不安が入り交じる胸中は時間が反対に進んでいったのか、曖昧でいて忘れがたいあの時刻にとらわれていた。 夕暮れがいつになく間近に迫りくる興奮を、いかにもありふれたうつろいといった心持ちで過ぎやった清…

みずぎわ

恋の十字架〜5

清也のしなだれたようにも見えるだらしなさの居住まいは、つまるところ自然発生的な姿態として今ここにあるのだろうか。だとすれば、若さと情熱は素晴らしい均整をもって自分自身を誘導している。 同年の女性にしては手に余るには違いないが、清也なりに葉子…

フラワーズ・オブ・ロマンス

恋の十字架〜4

清也のいわゆる物憂気な、自分でも少々むずかゆくなる斜に構えた気取りは、半ばある種の疲弊に冒されている紛れもない心境によるものだった。 連立する高層ビルが遠近感を忘れさったかのようにのっぺりと白々しく車枠の向うに現れる。が、その背後には巨大な…

コケコッコー

恋の十字架 〜3

清也の朝はいつも気怠かった。 頭や瞼や身体が重いと云うわけではない、夜明けを通過した街中の晴れ晴れとした気配に少しだけ波長が揃わなかったのであって、それは闇夜の国から一気に白日に曝された無防備によるものだった。誰だっていつも準備万端に精神統…

テオレマ

恋の十字架 〜2

恋は盲目という言葉を思い出し考えてみた。 確かに見通しが悪くなるのは一途に恋愛対象へ主眼を配置するからだろうし、結果的にまわりの状況が正確に把握できなくなるのも当然だろう、しかし、これはあくまで経済学的な視座でも説明がつくのではないか、自分…