美の特攻隊

てのひら小説

2014-02-01から1ヶ月間の記事一覧

ちび六危機一髪

うとうととろとろとろけるようなねむりのせかいにいたはずなのでした。 どうしてでしょう、ふっと目がさめてしまったのです。ふろばのせんめんだいのすみっこできゅっと足をまるめてねむっていたのです。 しんでしまったと思いましたか。いいえ、ちび六はと…

ゆびにんぎょう

夜霧のちび六

きょうもちび六はげんきにあちこち動きまわっています。 あちこちといってもこのいえの中だけですから、けっこうおなじところをいったりきたりの、かくれてみたり飛びでてみたり、ふわりとちゅうになげだされたように感じたりしているだけなのですが、あさと…

ちび六の冒険

明るみと呼ぶには似つかわしくない場所、けれども明かりが必要とされる日々のありきたりな、気にとめることなんてほとんどないところ、例えば玄関の片隅、寝室へと向かう階段の陰、そして寝室そのもの、醸し出されるのは柔らかな吸収力を秘めており、太陽光…

あとがきにかえて 〜 小林古径「髪」

淡く薄明るい背景は女人ふたりにある力強さを加味していよう。 両膝をつき長き黒髪を梳く所作、目にも蒼く映える振り袖の色は藍にも染まり、太い白縞が勢いよく下方に落ちだした様は滝の如く濃厚な色調を醸しながら互いに妙齢の生を慈しんでいるのだろうか、…

化粧16(最終話)

他の三枚とは異なる図柄を配した最後の一枚が炎を取りかこむようにして燦然と輝きだした。 写真に落ちた日差しはあきらかに隠れはじめており、夕暮れ間近特有のひっそりと沈みこめる気配に導かれていたと思われるが、どうした具合なのか寄りそったふたりの顔…

半蔵の鳥

化粧15

あの日の写真をとり出しじっと目を凝らす。 明かりの加減もあって大概は暗くぼやけた写りのものばかりだけれど、記念に、そうささやいた陽子の思惑にかなったのか、枚数の少なさは今からしてみれば価値を高めているよう思えてくる。 美代の手元に渡されたの…

ちりぬるを

化粧14

訪れた深く眠る色褪せたはずの想い出、それはきっと取り戻さなければならない宿命であったから、呼び子によって彩りを施されここに巡ってくる。ちょうど遠い汽笛が潮風を運んでくると信じてしまうように。 煌々とかがやく天井からぶら下がった電球のかさに遮…

夢と知りせば

化粧13

何日か過ぎて望美は、語ることに意義を見出したのか、小耳へ挟んだり実際居合わせた姉らのうわさを美代へ懸命に報告した。 ラブレターをもらったと自慢気に話し自分の方からも二回ほど渡したことを正直に言うあたりが姉らしいとか、眼鏡の同級生に限らず家へ…

神々の黄昏

化粧12

あのとき感じた、神妙に引き締まりながらもどこかへ吹き流されてしまいそうになる安楽さが、どうした加減で発生し、わたしの胸のあいだに渦巻いたのかよくわからない。 そして二階から見下ろす隣の庭がいつもの平静で認められる何気なさ、、、切迫した情況で…

ふたり

化粧11

その一室に満たされている僅かな匂いは、落ち着きを忘れ、狐につままれてしまった美代のこころを見守る役目を果たしていた。 同い年の望美が発散させるものと異なるのは、あくまで近場で計られる駆けっこみたいなものであり、そこには期待が生まれる条件や、…

木の葉

化粧10

人知れない物陰に佇んだときに感じとるような、たおやかな気配にくるまれている。 微風がそよいだと感じたけれども、たぶんそれは目覚めが引き起こした小さな吐息に思えて、そのささやきに似た声音で誘われるまま玲瓏とした調べに酔いしれるよう、没我の境地…

道草

化粧9

その後どれくらいあの家を訪ねたのか、はっきりとは思い出せない。 陽子にあてどもない憧れを持ってはいたものの、毎回彼女が家に居るわけではなく、あくまで同級生の望美を頼って帰宅後、ときには下校の途中にほんの小一時間くらい立ち寄る場合もあったけれ…

冬物語

化粧8

望美の瞳の奥に棲んでいた蔑みに近い怒りを、今でも美代ははっきり思い浮かべられる。 大人になってさえしばし見出すことのある、近親者が見せる憚りのない突発的な憎悪の露呈。 いたずらに直情から噴出した遠慮のなさと云うより、親兄妹だけに許される技巧…

神々の深き欲望

化粧7

あの日のことはよく憶えているつもりだった。 陽子の家の光景を振りかえってみると、以外に一度しか足を踏み入れてないある部屋の調度類を瞬時に思い起こせたりした。 また当時の自分とさほど歳の開きがない望美の下の弟がずいぶんと幼稚で、いかにも傍若無…

空蝉

化粧6

「いい撮るわよ、あっ、そんなふうに無理して笑顔じゃなくていいから。もっとおすまし顔で。そう、でも少しだけ目を下にしてどこか悲しいそうに。ごめん、ごめん、泣きだしそうな表情じゃなくてね。ちょっとだけつまらなそうにしてみて。はい、もう一枚。そ…

夜ふかし

夢浮橋

化粧5

未完成の人形を彷彿とさせる変容が引き起こすであろう美代の幼心は、当然のなりゆきとして本人の思惑から離れてしまい、戯れで造りあげられたとしても息をのむくらい崇高な芳香を漂わせていた。 内面まで美神が乗り移ったかの気高さをまとった様相は、つい先…

ジロリの女