美の特攻隊

てのひら小説

深夜の深夜のざるそば

寒々なんてあたりまえよ、寒いときは寒い、暑いときは暑い、たとえばマイナス気温の夕暮れ、暖房のなかの暖房であったまった体なんて、よほどヒートテックじゃない限り、どうてことないわね。
むろん重篤な病人は別よ、でも、そうでないのなら、ざるそばが食べたい。
っていうのもね、わたし、今日、酔っ払っているのよ、久々に飲み会に行ったのね、飲み会といってもひとり酒、楽しかったって、そんな、野暮はやめて、ああ、そんなこと。
でも、やけにぬくかった、ええ、春先の気温ですって、そうですか、だと、冷たいざるそばはもっともね、と、いうわけで、いつもの深めのフライパンで湯を沸かす、沸かす。なかなか沸かない。
そうね、待つのも人生、だから、わたしは買い置きの、割引の、なぜって首をかしげながら手にした野菜の、値引き加減がいい加減な、季節はずれのきゅうりとトマトを千切りならびに細かく切るの。
さらにカイワレは常備だから、安心だわ、多い日も安心。もう少し凝視して凝視してなぜかわからないけど凝視してとらえた、冷蔵庫に眠る、あたりまえな、ちくわ・・・も参入。全部ぶっかけます。
薄切かぶつ切りするかで、しばし、まどう、まどってまどってまどう間にお湯は沸くのね。
自然だわ。薄く、ぶつ・・・ぶつぶつ、あっ、これは文句じゃありません。ただ、ただ、切っただけ。
う~ん、他にもないか、酔眼の強欲、ここに至り。でも、ないわ、ハムあったけど、これは明日のパンに乗っけようという鮮烈な打算が働きかけるので、中止、この中止って言葉に酔いなおす。
煮えたわよ、野菜も夜の深い深いところで喜んで切られていることを覚悟しているらしく、神妙で、その色彩は夏日のあの思い出を彷彿させるのだけど、思い出が思い出であることの自覚がやってこないから、すごく手軽。
めんつゆ、仕込みに仕込んだ、めんつゆ、けれども、他愛もない、それはいりこだしパックを先日から寝かせて寝かせて、ほんだしやら、粉節やら、塩こんぶでまみれにまみれさておいたもの。三日前の記憶の記憶。
そうじゃなければ、ざるそば、食べようなんて思わないでしょ。
はじめに出汁ありき、新約聖書をひもとくごとし。
水道水、冷たいわ!でもしめる、しめる、とことんしめる、季節はずれの野菜も冷え冷え。出汁も暗黒の井戸からくみ上げられたような塩梅で、あっけらかんと手早く調理は完了しました。
確実にお腹冷えるだろうな・・・でもお酒で火照った口内は夢のなかの夢ではなくて、のどぼとけに何かを訴え唱えるのでしょうね。だから本然なのです。
ほうじ茶を熱々にして待機させてあります。それほど、自虐ではありません。またしても深夜3時。

謹賀新年

「なにも答えられない、そう思われるのはわかっていました。
手ごたえのなさに失望してしまう君の表情をただあるがまま浮かべているだけ、それは予感どころか、僕にとってなんとしても回避させなければいけない神経経路でした。しかしたえられないのは君だけではありませんよね。
めぐりあう時間を無造作に切り捨てる傲慢さがどこに由来するのかは知りませんけど、少なくとも今の僕はどのような形であれ好意という感情に傾斜をつけることなど出来ないのです。憐れみを投げつけるなんて術はどこにありようはずもなくて、ひたすら感謝の気持ちでいっぱいですから。
たしかにお手紙をいただいた日は驚きでいっぱいになりました。まったく思いもよらなかった告白、しかも僕の実情を鋭い嗅覚で忖度するような筆使いには理知が走り、夢の光景さえあぶり出して、なんらかの展望をまばゆく語っているではないですか。
何回も何回も読み返しましたよ。もちろんちゃんと家に帰ってからです。思い出すのが気恥ずかしいほどあわてふためき、汗をかきながら、けっして不快なしたたりではなく、森林の冷涼な空気が玄関まで運ばれてきたような、さりげない落ち着きを靴底に踏みしめ、ようやく部屋へ飛びこんだときの高揚が忘れられません。
でも一読してあなたの文意を理解するには及ばず、なぜかと言えば、図書室で借りた書物の頁をめくるふうな日々の延長が断ち切られる衝撃がそこには綴られていたからで、君は光の束になったと表現されていたけれど、僕の方こそまぶし過ぎていつもの視線はさえぎられ、一句一句かみしめながらでもなかなか判読しづらく、末尾へたどり着いたはずなのにまた校舎を背にした君のすがたが、西日を受け朱に染まることを覚えつつはにかんでいるうつむき加減が、幻灯機の保有するはかない華美と相まってよみがえり、まるで銀幕に写しだされた女優と男優とがくりひろげる恋愛模様を、あるいはそれ以上の澄み渡った大気に祝福される吐息の距離を、優雅に胸の狭間へと投げかけるものだから、ついそっちに気をとられてしまい、肝心のあらすじにそえないまま、あっという間に夜のとばりが下り闇がすべてを覆いそうになってきたので、僕は枕のうらに君の手紙をもぐりこませ、まだ見たことのないの蛍の明滅をおぼろですが、寝床にまねき寄せ眠りの向こうからしめやかな夜景へと眺めやっては、君の心情をはかっているしかなかったのでした。
そうしてはじめてまばゆさに共感しあえるよう感じたというのは、やはり不遜でしょうね。
あなたは少々、僕とは違う意見で夢をとらえているのでまるっきりの共感とは言いませんけど、鏡の効果に言及しているところから察するまでもなく、自己像の直截的なあり方より他者がどう見えてくるのか、異質の加減、その微妙な陰りやほのかさを通じて感じとろうとしているし、成育の違和によって導きだされるものを見据えており、とても晴れ晴れしい気分になりました。
ただし、晴れやかさは白昼の高い天だけにとどまりません。むしろ後ろめたさをはらむ場合が多いので乙女の通行手形と異なって、不親切なのは一緒かも知れませんが、少年に配られる切符、まったく線路を記憶していない、けれどもなぜか脱線には覚えがあって、いつも不吉さを優先しているような均衡をありがたがる乗り越しが沈滞しているような気がするのもほんとうです。
ああ、やはりこういう言い方には好感は持てませんか。終着駅と潮流を、その宿りを直感だけで探りあてているような慧眼をもってしても、汚らわしいと顔をそむけてしまうでしょうか。でも灯されるぬくもりに肉体の盛りを夢見るのはやはり男子の本性なのです。
そして自己愛を拭きとろうと勝手に動き出す意思こそ生命の根源に直結しているのです。
ここが境界かも知れませんね。
君のもつ気まぐれな野性は過敏な知性とよく調和しているような感じがしてしまうのですけど。
もし僕が兄であったとしたならどう感じただろう、不意にあり得ない想像をしながら、同様に姉という存在を想像してみたこと、その不在を埋めるため、映像として写しだされる美神に気分を捧げたこと、まぼろしと現実の不一致がなにより怖かったこと、意識を預けいまだ引き落とす方便に出会えないまま、指標は風化を疑らず、極めておうとつのない変哲のない時間と空間にさまよう姿勢へのびしろをあてがってしまうような自分のことが嫌でたまりませんでした。
岩石は僕自身がつくり出した幻影ですから、いや、たぶん産声のたなびく彼方をもの欲しそうにねだりはじめた頃より、障子を透かす陽光に見とがめられた塵埃の舞うさまが起源なのでけっして君のせいではない、あくまで薄色の堆積によるもの、着ぶくれした真冬の寒気のあざけりが、毛糸や布団の自由気ままをいくらか封じていたのでように思われます。
それが陽光になればまわりがぱっと色濃くなって、ところどころにけばけばしい装いをほどこしてゆくのです。
厚化粧と知りつつ発汗の理に抵抗する彩度が、派手さを強調してやまない洋服や太陽に挑みかけては細めてしまう眼と結託し、豪華なクレヨンをまえにした児童の会心の笑みがさらに画用紙をきらきらと純白に仕立てるのです。
この季節、寒空にかじかむ手足や指先のささくれをひどく懐かしがるのは、塵が湿気で膨張したかのようなうぬぼれを間近に感じ、信頼が暖炉でくべられる不敵をあらためて認め合うためなのでしょうか。
冬景色と夏の画用紙が透徹した純度で結ばれるように。
そして吸い取り紙みたいな効果を信じるひややかさ、それは鏡の魔法がたしなめる推移への謳歌なのでしょうね。保温という優しさへの期待に寄り添う横顔を僕はたしかに見届けました。

あの夏、目覚めとともに僕を襲ったのはやぶ蚊のかゆみだけではありませんでした。
毎夜、蚊遣りを煙らしてもどこかしら皮膚に赤みを残していく風物詩は無惨にかき消え、実際にかゆさを感じなかったわけではなかったけれど、それを遥かにうわまわるくらい、あなたへの関心が強まったということです。
正直に言うといったん気抜けした、つまり見届けるもなにも僕の思惑などはなから下手な将棋に等しく、どう転がってみてもどこで起き上がってみようが、いくらでも君には打つ手があるのがわかったように思われました。。
額面通りに返信せずいたならどうなるのだろう。僕の怠慢で育まれるのは間延びした冬休みなんかじゃない、反対にひりつくような焦燥に駆られ、いてもたってもいられなくなるにちがいない。
なるほど住所を記さなかった理由は羞恥に促され整然と述べらていますが、氏名と学年学級を明かした以上、一方通行の恋情に終始してしまう、一度限りの手紙ですべてを燃え尽くしてしまうとは考えられません。
しかし、嫌味なまなじりで深読みするまでもなく本当にあるがままを懸命に伝えたかっただけだとしたら。
そうだとすればやはりあの手紙はまったくの恋文にほかならず、僕は黙って気持ちを受け止めるしかありません。
不甲斐ない男だと思われても仕方ないのですが、ある事情で沈黙に準ずることに対し辟易していた矢先だったので、ここに来てふたたび別な方角から似たような心境へと沈んでゆかなければならないのか、どうして未来は遥か遠くでしか約束を交わさず、そしてあなたの場合は未来がすでに過去であるという意味で遠く、いくら胸に生き続けると言い聞かせてみても、失意は押し寄せてくるばかりなのです。
が、ずっと負の襲来に身をまかせているのは悲惨すぎる、そこで思案しました。
とにかく冬休みに入るまえにはあなたと直に会って短くてもかまわないから、ひと言ありがとうとだけ伝えよう、そして君の態度や顔色をよくうかがってみて、文面にのぞかせた意向はやはり一縷の希望を託している様子であれば、返事がいらないなんてどれだけ僕を気遣う口ぶりであってもそれは弁明、自分の想いを訴えたのだから、どう相手にとらえられたのか知りたいはず、これが返事ですと君に手渡す、といってもその後の進展など特に求めはせず、僕は残り少ない学年を送るだけ、かりに気持ちが通じ合い親しくなってもいずれは離ればなれになるけれど、文通の意志さえあれば恋情は燃え盛ることのみに意義を欲せず、冬景色の凜とした情調へ歩み寄るのだから、とても季節に則った素晴らしいことではないですか。
あなたの横顔を僕はたしかに見届けました、そこまでが返事でした。
早速、僕は君のすがたを待ち受けました。そしてこの時点でいかに思い上がりが大きかったかが判然としました。
返信を勝手にしたため失意を転じたと浮かれていたのだからもっともなことです。転じたのはあくまで僕の意識であって、君のものではありませんよね。郵便受けには最初よりもっと激しい手紙が届けられる夢想がかなりつまっていました。
ところが図書室にも昼休みにも放課後にも二年生の校舎付近にも、どの時間もどの場所にも君のすがたはありません。所詮、待ち受けていたに過ぎない怯懦を悟り、見当たらないなら堂々と君の教室までゆけばいいものをそこまでしなかったのは僕の高慢以外の何者でもありません。どの時間やどの場所なんて限りなく最小の点描を用いた絵日記の戯言です。
しかもその絵日記には憚りもなくあなたがおっしゃた例のあだなの文字が刻まれていたから始末におえませんでした。
僕は君がつけてくれただろうあだ名にすっかり舞い上がってしまい、いつになったら自分の耳に入るのだろうと冬休みを怖れつつも密かに遠ざけていたのです。
年越し・・・もう遠くあるはずもなく、けど近くには確実に見出せそうな時節。
ごめんなさい、神経やら、とまどいやら、情念はもうたくさんですよね、謹賀新年。
僕の言葉の末端ではありません。始めの産声のような喉のなり響きです」

あなたへ

「お家に着きましたか。ごめんなさい、さっきは勝手なお願いをしてしまいました。
とても胸がどきどきして、気持をはっきり伝えたいのにもじもじして、たとえ手紙を受けとってもらえても、わたしの表情ですぐにあなたは察してしまい、ぴしゃりと拒まれたらどうしよう、今日のうちにしおれてしまう花びらみたいなはかなさが怖くて、せめて一晩くらい気ままなときめきを胸に囲っておきたかったのでした。
でも住所を書かなかったのは同じ理由からでなく、とても言いづらい恥ずかしさがあって、変な意味ではないのですが、なんだかよくわからないまま、失礼を承知で、あっ、わたしなにを言ってるんでしょうね、すいません。
しかし勇気をもって、そう、こんな手紙をお渡しするのですから、ちゃんと説明しなければいけませんね。
あなたはすてきなひとです。頭がよく優しそうな雰囲気があり、相手のことをしっかり感じてくれる、わたしの一方的な想いと軽んじられて仕方ありませんけど、浅い水際から足のつかない水底を探るような不安は浮遊する期待にふくらんでいるので、もし受けいれられたとして、おそらくあなたはわたしの好意に対し、なるだけ早く応えたい真心で返信をくださるでしょうし、駄目な場合であったとしても傷心に気づかって迅速で丁寧な断りを綴ってくれることでしょう。
すべった足もとに適切なまなざしを注いでくれるにちがいありません。
それなのにわたしの心情の発露といったら。進学へ向けた大切な時間をさいていただくのがいかに遠慮のないことか、まして冬休みを目前にした恋文なんてどれだけいかがわしく気配りを欠いたものか、迷惑なのか、わかっているつもりです。わかっていながら今日を選んでしまったのはもうたえきれなかったからなのです。
あなたを慕いはじめたのは半年ほどまえ、見た目にはしとやかで可憐な装いに映る、いえ、そう映ることをいつも求めているわたしたち女子のかしましさはかなりなものだろうし、豊満な空気はたえず野性をしのばせているので、その触手はいくらか獰猛なのでした。
こんなふうな言い方をしたら幻滅されるかもしれませんけど、恋のきっかけは必ずしも厳粛なたたずまいや、そよ風の清廉ないざないや、夢のまたたきからきらきら飛び散る火の粉のせいではなくて、もっと卑近な場所に立ち寄るどら猫の毛並みのような直感から生まれてくるように思います。
遥かかなたへ胸おどらせる高尚さにまじりそうでまじらない他愛ないおしゃべりのゆくえ、それが乙女の通行手形、純情なのかもしれませんね。
意中のひとを語りあってみたり、歌手や俳優の容姿を論じてみたりしながら、身近の男子に触れ合う機会をうかがってはなんらかの成就を願うこころ模様、わたしもそんな中にあってご多分にもれず突風のあおりを受け、あるいは自力で奮起して巻き起こし、恋という色彩に瞳をかがやかせてみたくなっていました。
そして想いがかなった級友をうらやんで悲しくなったり、あれこれしゃべるわりにはじれったい顔つきしかできないもどかしさを叱責している鬼のような自分におののいたり、すでに深刻な間柄までいたったといううわさ話しで鼓動を強めたりしても、恋のゆくえをたどりきれない現状に結局は安堵するのです。
では、どこからあなた対する気持が芽生えてきたのか、よくよく推測してみたのですけど考えれば考えるほど、ちょうどおさない手つきで庭先に埋められたかつての宝石が果たしてどの辺りだったのか、さほど広くもない裏庭を無性にあちこち掘り返しているような記憶がかすめていくばかりで、これといった要因は見当たらなく、やはり通行手形はあくまで機能を有したものでしかないのか、これよりさきのなりゆきはもちろん、発火点を告げる手間もはぶかれており、それ以上思いめぐらすことは不可能ですし、なにかしみじみ疲れてきたので純情という鏡にすり寄ったのでした。顔かたちの微妙な動きで心境を見つめるためなんかじゃありません。
ひんやりした肌ざわりを約束し、やがて体温を写しとってくれる冷淡な境界が懐かしかったからです。
なので輪郭を持たない影のような気配に惹かれたというのが本音かもしれませんね。
それと、これはあとづけの根拠みたいで言いわけがましいのですが、成績抜群なのは全校でも知れわたっていたけど、図書室で片っ端からいろんな種類の本を借りてはすごい早さで読んでいるということを友人から聞き及んだとき、はじめてわたしの脳裏にあなたの影がよぎり、すぐ様それは光の束になったような気がしました。
さほど頻繁ではなけれどわたしだって壁一面をぐるりと支配する書棚の景観を好んでいたし、あの独特の匂いに包まれながら未知の世界を手にする重みに授業では得られない華やぎを得ておりました。
以前からすれ違ったり、お互いのまなざしが交差した瞬間だってあったはずなのに、どうしてあらためて意識しだしたのか、それはわたしがこれまで男子を異性としてあまり感じとっていなかったせい、二年生になってからだつきがすこしだけ大人っぽくなったせい、そんな自分を意識することが男子との差異をめざめさせた結果なのでしょう。
しかし、どれだけ下地が整いだそうが、肝心かなめの対象を彫り上げるまなざしは実情に取り残されているのか、それとも肉体をさらに反射させ、めざめの遅れに躍起となった理知が夏の秘密を、光線の正体を、影の不思議を解き明かそうとしたのか、答えはちょっと恥ずかしいのですが、それはわたしがあなたにあだ名をつけたことなの。
おかしく聞こえるでしょうけど、あなたはわたしの兄のようであり、しかし兄を越えた存在になっていて、そうした想いはむろん経路を知りません。ただ、この季節は大いなる季節にちがいない、強烈な陽射しがわたしの殻を焼きつくすだろう、行き止まりのすぐそばで。
そこはあなたがいる場所なのですね。この町を離れ進学されてもわたしから遠のいてしまっても、あなたはここにいるのです。この倒錯した想念は鏡の作用、わたしの願望と先送りした影が交わる花束、だけど受け取ってもらえない寂しさより、残像の映しだす記念碑を抱きしめるよろこびが勝ります。
わたしのこころにあなたが棲んでいる。
わたしはあなたの匂いをもういちど確かめるため図書室にゆき、そしてついに決意しました。手紙を書こうと。
あなたにしてみれば重くのしかかる岩石みたいなわたしですけど、これでいて以外と明るい性格なのですよ。だって仲の良い友達にはもうあなたの話しで盛り上がったり、はしゃいだりで、切実な面持ちなんて仮面のようにはずすことだって平気にできそうですもの。
なら、なぜもっと以前に気軽に想いを告げなかったのか、その問いはあなたのひんしゅくを買うに十分過ぎるので、正直に話さなくてもいいなんて、ふとどきな考えを泳がせていたのですが、日々の過ぎゆきはわたしにとってとても大切なものを包み隠しているように感じて仕方なく、かなり誇張したくちぶりですけど、宿命の恋だと太陽も海も山々も呼びかけてくるのです。白波は激しくて緑がまぶしいの。
なにより声高にするつもりなんかまったくなかったはずの、たいしてひねりも利いてない、それでも敬慕をこめたあだ名がにわかにひろまってしまい、冬休みまでには浸透をまぬがれず、まちがいなくあなたのもとへひたひたと伝わっていきそうでした。
部活動とは無縁のあなたとわたし、休校のあいだ、あなたは怪訝な表情をつくったまま、わたしは浅はかな思い出をかついだまま、あだ花を嗅ぎ続けなくてはなりません。そんな茶番はまっぴらです。しかも記号を付与されたみたいながひとり歩きする気安さに親しみを感じのか、今までとっつきにくい存在だと決めつけて、および腰だった他の女子らがこぞってあなたになんらかのかたちで接しようとしているです。
いいえ、誇大妄想ではありません。たとえ実りがなくとも寸暇であっても情熱がくすぶっているかぎり、特に冬の光で生彩をとりこんだ意識のたかまりは大きく、一様に恋の炎に身を焦がし寒気を忘れるいきおいなのです。
わたしひとりの眼を通して見つめている、そう仮託していた恋をよこどりされては身もふたもありませんので、おぼつかない筆をとってあらましを述べさせていただきました。
結局そこへ流れつくのか、そう見下されてしまうのは覚悟しております。ですから返信は無用と申し上げたいのです。憐れみだけわたしに投げつけてくだされば本望、わがままをどうぞお許しくだませ」

夜のインスタントラーメン

久しく堪えてきました夜食、しかし晩秋の深夜の孤独に対して見合ってくれるのは、やはり、インスタントラーメンであって、カップ麺じゃありません。
昭和スタイルの袋麺であります。
そういった数ある種類のなかでも定番が台所の隅っこに眠っているのは郷愁そのものです。
てっとり早くつくりましょう。なんせ、もういつも通りふて寝の時間だったので、ほんとう、今夜はまれなんです。
ここんとこ再発見がエースコックのワンタンメンだったから、今夜は違ったものを・・・在庫はサッポロ一番塩ラーメンと徳島金ちゃんらーめん、チャルメラしょうゆ味、といった面々。
まよわず、サッポロ一番塩に決定!
たまねぎ、にんじん、ながねぎを、麺の細さに見立てて切りそろえながらお湯をわかします。
フライパンに・・・麺が泳ぐ、吹きこぼれしないし、大人の落ち着きのような構えです。
小鍋には的確かつ、やや多めの湯を沸騰させ、さきほどの野菜をどさりと投入、そのとき、少々のコンソメ顆粒を加えて茹でます。
どんぶりにはもちろん、即席の心構え、ついでに白ごまなどふりかけておきましょう。
と、なれば、ごま油も出番かな・・・でもここは慎重、あくまで仕上がりを待っての実験の心意気。
茹だるの早いわ~。
おっと、ここには半熟を添えなければ、栄養価を、明日へのそつなきステップを。
卵を割り、小鍋に落とし込む。どうか、かたくならないでと祈りつつ火力を調整し、麺の茹であがりに散漫な、しかし、抜かりのない時間を謳いあげる。

おそろしく早い出来ばえ、それにしては2時間ほどまえから、食すかどうか煩悶した時間。
フライパンの茹では早いので、それを思い出し、さささと仕上げに。ぷふい、まるで首猛夫のような講釈が踊り出しそうになるのだけど、案外そうでもなかったです。ごま油は却下。代わりにベビーチーズ2個投下。これが戦後といわずいい戦いを展開してくれました。溶け出す、固形の違和感と、たちまちにしてなじむ感触。
もうズルズル、ちゅるちゅる、ぱくぱく、あっ〜、お腹いっぱい。温まった、おしっこしてすぐ寝よう。
午前三時の晩餐会でした。

写真を撮る余裕まったくありませんでした。

恋する恋

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額装におさまったふうな横顔を日に何度も思い起こしてしまうので、美子は仄かな水彩が少しづつ塗り重なってくる感じを胸中にとどめておこうと努めた。振り払ってしまうには頻繁過ぎるし、向こうがわに浮上する面影をとりたてて不快とは思わなかったからであった。
むしろ懇意な男性も交際相手もいない身にしてみれば、華やぎを代行しているようなときめきがやわらかな光にそっと包また情景を思い描き、ちょうど空模様に即したまなざしが揺れ動く、こまやかな生彩を育んでいた。
ところが美子にその横顔から想起される特定の人物を探しあてることは無論、少女の時分ひそかにあるいは友達同士で喋りあっていた歌手や俳優にあこがれた陽気な場面に重なることもなく、おぼろげな回想もよみがえってこない。
あとは美術館か画集で見知った印象じゃないかと意識をめぐらせたのだったが、不意にその詮索めいたな物腰から後ずさりしてしまった。
出来事の実情が常に居座るのであれば、どこかで願いなり欲求なりもしくは蔑みなりを抱くであろうし、うらはらにありありと映りこむ身勝手によって強度の反撥が生じているかも知れない。
たしかに胸のなかでは淡麗な味覚をなぞったような風合いが彩度を募らせ、日毎に移りゆく天候の明暗とも調和しかけて、仕事のさなかや大事な会話の途中に割りこむ横顔に対して違和を覚えることさえ熟知していた。が、色調に濃淡の気勢を認めるかぎり、逆に隠された情念は虚しさを糧に身のまわりから生気を抜き取ってしまう。
あたかも原色を授けられた風船に思いきり息をふきこんでしまえば、淡い寂しさが生まれてしまうよう、そして破裂寸前の小胆を代弁したかのふくらみは、どこかよそよそしく熱意とは距離を置いた彩りに満たされている。
これを美子の心情に結びつけてしまうのは当然ながら酷で、たとえば奏楽を背景に空高くのぼってゆく大量の風船などではなかったし、額装一枚の裡に隠顕する男性の横顔に翳る表情の由縁を味到する意欲を持ち合わせているのか、やや曖昧であった。
見知らぬ異性、好奇に寄り添った実際は自覚出来ても、肝心の恋情がこころの壁にも、あたまの襞にも絡んでこない。ただ縁起かつぎをわずかほど信じた、星座占いに少しだけ惹かれた、手相をときおり眺めては思いついたとばかりに教本をむさぼる。そんな行いに別に罪があるはずもなく、美子の想いはことさら風変わりと言えないだろう。
ただ異性だけでなく気軽に友達と呼べる者もいなかったことが、横顔の醸す得体の知れない冷徹さを増幅させる結果に近づいてしまい、煩悶を招くと同時に、投げやりな感情の処理場を見つけだそうと焦りはじめた。
哀しみにひたる果断な暗所は別として。
そういえば額縁の素材や色つきは、大きさは、横顔に宿る意味合いをなかば放擲してしまう意想はかなめの面差しからの逃避ではないか、あえて暗所からこわれものを運びだす慎重な手つきに頼らざる得なかったのは、やがて定見に踏み入れたからであり、日増し深まる邪念と向き合う、ある意味選び抜かれた心持ちに支えられていた。
薄明に遠く眼をやる、あの醒めた外気と触れ合う肌の感触は忌まわしい意識の明滅を正面から受けとめる願いに帰順していた。
そして光線の加減が春の修羅をそれとなく伝えようとしている不遜な優しさをそっと胸元へなでつけるふうにしてから、
「きっとあの横顔は将来の花婿なのよ」
そうぽつりとつぶやいてみるのだった。