寒々なんてあたりまえよ、寒いときは寒い、暑いときは暑い、たとえばマイナス気温の夕暮れ、暖房のなかの暖房であったまった体なんて、よほどヒートテックじゃない限り、どうてことないわね。むろん重篤な病人は別よ、でも、そうでないのなら、ざるそばが食…
「なにも答えられない、そう思われるのはわかっていました。手ごたえのなさに失望してしまう君の表情をただあるがまま浮かべているだけ、それは予感どころか、僕にとってなんとしても回避させなければいけない神経経路でした。しかしたえられないのは君だけ…
「お家に着きましたか。ごめんなさい、さっきは勝手なお願いをしてしまいました。とても胸がどきどきして、気持をはっきり伝えたいのにもじもじして、たとえ手紙を受けとってもらえても、わたしの表情ですぐにあなたは察してしまい、ぴしゃりと拒まれたらど…
久しく堪えてきました夜食、しかし晩秋の深夜の孤独に対して見合ってくれるのは、やはり、インスタントラーメンであって、カップ麺じゃありません。昭和スタイルの袋麺であります。そういった数ある種類のなかでも定番が台所の隅っこに眠っているのは郷愁そ…
額装におさまったふうな横顔を日に何度も思い起こしてしまうので、美子は仄かな水彩が少しづつ塗り重なってくる感じを胸中にとどめておこうと努めた。振り払ってしまうには頻繁過ぎるし、向こうがわに浮上する面影をとりたてて不快とは思わなかったからであ…
夢の光景にはいつも幽かな調べが流れています。どれほど急展開しようと過剰な乱れが生じようとも、薄明への思慕から遠のくことができないように、自然の理はおののきを袖に含みながら、とても穏やかな威厳を醸しており、それは不吉な予兆さえ、あらかじめの…
お題「花火」
白雲がよく映えた夏の朝、列車を待つホームから遠い町へとのびるレールにふりそそぐ陽射しをゆったり見つめながら、何故かわきあがるべき旅情を制するような、物おじが先立つ足もとに気をとられてしまって、その影は反対車線のさきほどから鈍いを音を放って…