美の特攻隊

てのひら小説

青春怪談ぬま少女〜7

「花に嵐のたとえもあるさ、さよならだけが人生さ。だからよくお聞きなさい。もう会うことはないのだから。あんたが家へ向って歩き出し、途中で忘れものをした素振りでここに戻ろうともそれはあり得ないと言えば、どうかな。奇妙に聞こえるだろうか」なまず…

花の宴

青春怪談ぬま少女〜6

とりあえず客室になるのかな、なんか物置き部屋って呼んだほうがしっくりするようだけど、気遣いなのかひがみなのかわからなさに我ながら嫌気がさして、しきりに恐縮がっていたカエルおばさんの面持ちがまぶたの裏にしみこんだころにはもう意識は薄らいでい…

太陽がいっぱい

青春怪談ぬま少女〜5

水底はなるほど水底なのね。てくてく歩いたつもりでもときおり地に足が着いていないような、浮いた感じがする。そしてカエルおばさんの、「ほら見えてきたでしょう」この一声ですっきり背筋が伸びて眼球は遊泳しはじめた。たしかに建物が見えたわ、ぽつんと…

青春怪談ぬま少女〜4

時間はこれまでと同じでよどんでいたけど、ところどころ透明な感じが胸に入り込んできたから、ひどく沈滞しきっていなかったみたい。すでに水圧の作用なんか身体から離れているし、沼底は陸地と変わらない居心地に落ち着いていたわ。あくまで無心に近い場合…

想い出の夏

こどもの時間

青春怪談ぬま少女〜3

「もう立派な幽霊だよ」えっ、誰がつぶやいたの。独り言じゃないわ、たしかに耳もとへ届いた。優しく厳しくもあるような、それから不気味さがしっかりまとわりついている。仕方ないのよ、時間をとらえるのだってあやふやだし、おまけに記憶があちこち散らば…

GO

青春怪談ぬま少女〜2

見知らぬふたりはもう随分とまえからわたしのことを観察し続けているような思いがした。だって顔を見合わせるのと、わたしを見つめている時間が同じくらいで、そのうえ目の色はとても深く、くちもとは秘めごとを押し殺しているように感じられたから、まちが…

初夏

青春怪談ぬま少女〜1

みどろ沼、ここがわたしの住んでいる、あっ、ちょっと違うかな、でもいいか、他にも仲間がいるしね、とにかく毎日の意識が発生しているところです。順を追ってお話したいんだけど、どうにも前後不覚の切り貼りだらけで、意気消沈が長かったせいもあって、う…

playback

夢の愛

ことさらまえぶれなく閉ざされたドアの向こうへ手をかけたのは、薄らおぼえでしかない顔がほのかに浮遊していたからであり、その手つきに異論をとなえるような思いはひそんでいなかったにもかかわらず、水の流れにあらがえない穏やかな諦観が影となって寄り…

ラストダンス

つづれおり

もし私が感情表現を持ち合わせていなかったとすれば、当然ながら表現以前に接点さえあやふやだと考えてしまうところだが、果たしてそれは確かな解釈であるのだろうか。表現にとって感情は常に不可欠でなければならないと仮定してみると、喜怒哀楽がわき起こ…

幻灯機

ひめはぎ

うららかな春日和の過ぎゆきとは無縁だったのだろうか。やるせない午後の気色に身をまかせていると、階段を上る足音が聞こえてきた。遮光を願う意識には秘密がほの明るく灯されている。性急な心持ちがやんわり抑えつけられてしまいそうに弱々しく、か細い、…

昭和残響伝

空の青み

夢の窓をあけようとする手もとにまとわりついたのは、見知らぬ家を訪ねていると云う鼻白む遠慮にあらがう想いだった。読めない音符に見果てぬ旋律が運ばれ、虹彩には澄みきった情景が待ち受けていたから。遠い青空を卑近なまでにたぐり寄せるまなざしが、私…

一日

夏の日

【第7回】短編小説の集い 参加作品 生い茂った草が束になれば、緑のひかりを生み出し目にうるおいを、耳に涼風を届けてくれる。夏が終わり、喧噪がまぼろしであることを誇っていた様相に、どことなく慈しみを覚えてしまうのは、いかなる理由かなどと、のど…

ペルソナ

ペルソナ〜53(最終話)

夏木立の合間を縫って山間に点在する民家を眺めた両の目はまぶしさを一段と募らせて、澄んだ意識を保ちながら生い茂った雑草のうえに歩を休めた。真新しい空気を気持ちよく運んでくる涼風には、草いきれを浄化する瑞々しい効能が備わっているようで思わず鼻…

海を感じる時

ペルソナ〜52

純一がうつむき加減になるまで他にも色々と砂里は語りかけていたし、合間にはそれなりの受け答えをしたつもりであったが、己の影にすっぽり包みこまれてしまった切なさが募り、外界からの情報を取り込む意欲を喪失しているようであった。実りかけだした恋情…

四月のミル

ペルソナ〜51

純一は表情がこわばりゆくのをどこか覚めた意識でとらえていた。際どい橋渡しなはずだけれど、平静を装ったまま歩を踏み出しているような、宙に浮いた空気抵抗を感じている。高所から見下ろす先へと吸い込まれそうなめまいにも似たあやふやさが、危険を察知…

行人

ペルソナ〜50

「父さんどうなったか気にしてくれるんだ。想像してごらんって言いたいところだけど、『処女の生き血』ってウド・キア主演の映画を観てくれていれば感銘深いだろうね。至上最弱の吸血鬼なんだ、今度機会があれば鑑賞してほしいよ。父さんは吸血鬼なったわけ…

もの想い

ペルソナ〜49

砂里の黒目はどこへ焦点を定めればよいのか分からなくなっているようだった。貰い受けてきた子犬がはじめて屋内に放されたときのためらいに似て。それは葛藤や軋轢からくる重圧とは異なる、もっとたおやかな、花吹雪のなかにさらされているみたいな、ときめ…

赤い影

ペルソナ〜48

「そうそう、うちの父親についてね。ていうかわざわざ心配してもらうほどでもないんだけど。やっぱり罰が悪かったに違いないさ。息子をまえにして吸血行為に陶酔するんだもんな。誰だって少しは変なとこがあったり、妙な癖があるだろうけど、いくらなんでも…

春の雪

ペルソナ〜47

追想には違いないのだろうが、口をついて出る夏の幻影は自らの裡に巣くっている実体のようにも思えだして、振り返えるまなざしは迫り来る倒錯した感覚だけを残してゆこうとしている。夢幻の境地をたゆたう模糊とした視界にどう委曲を尽くせばよいのやら、次…

光線

ペルソナ〜46

決して声をかけた方向に寄ったわけではなかったが、美代の言葉は塚子との距離をせばめていると錯覚してしまう効力を秘めており、それは金縛りの状態をあらわにしているのではなくて、むしろ特異な磁場で浮遊しているような不均衡ながら危うさを示さない様子…

蠢動

ペルソナ〜45

「あの日の君にはもう会えない。あんなに涙を流し続けたからきっと何もかも忘れてしまいたくなるって思った、ぼくのことも、美代さんのことも。少しばかり、いいや、少しなんかじゃない、砂里ちゃんをさらに傷つけてしまう恐れを胸にとどめながら、あれから…

それから

ペルソナ〜44

少しばかり喧噪から奥まった雰囲気が感じられたのは、どこか昭和を喚起させる素っ気ない店内の作りに相まって出汁の匂いがしみじみと鼻に香ったからだろう。特に古びた木目が際立つ壁面でもないのだが、飴色をしたカウンターやテーブルには時代がかった味が…

約束

トピック「お花見2015.03」 - はてなブログ

ペルソナ〜43

「やあ、元気そうだね。あれ以来だけど、ごめん、連絡しなくって。去年の夏はいろいろありすぎたせいかな、寒さはけっこうきついよ」いまにも粉雪が灰色の空から舞い降りて来そうだった。純一はダウンジャケットのファスナーをしっかり引き上げる仕種をした…

背中のコード

ペルソナ〜42

孝之の悲願は見世もの小屋に遊ぶ心理と比べてみてどこも遜色がなかった。初秋の午後を吹き抜ける一陣の風に夢を託す。季節が人々を培う風景は凡庸であることから解き放たれ、ときには信じられないほど美しく輝く瞬間を秘めている。陽子の出現により挫折しか…

春と修羅

ペルソナ〜41

「それで三上さんは今こうして美代さんに会われたわけですか」孝之の声色にはあきらかにおののきが加わっている。「そのようですね。私は砂里に上手く先方にたどり着けたらメールで連絡するよう言っておきました。まさかいきなり直行されるとは考えてもおり…

春琴抄