美の特攻隊

てのひら小説

2013-01-01から1年間の記事一覧

あこがれ

暗くなるまでこの恋を

恋のエチュード

タイムマシンにお願い~6

そこは見渡すまでもなく奥深き懐かしさで囲繞されていた。 透明人間の心境を引き寄せたのも時間の為せるわざなのだ。そう考えても罰は当たるまい。 郷愁とは聞こえこそ角を立たせないが多分に泣き言を孕んでいる。これもあながち的から逸れてはないと思う。 …

日曜日が待ち遠しい

パープルヘイズ

タイムマシンにお願い〜5

操作は始まったのだろうか、腰掛けた身体には吸盤の圧力が稼動しているような感覚が生じている。 すぐに全身が硬直しだし、強烈な暴風にさらされているときの身動きに近い心細さをともなった威圧が胸中に広がった。 身体の痛覚よりも遥かに神経が波打ってい…

てざわり

大人は判ってくれない

タイムマシンにお願い〜4

そのときようやくNさんは口角を上げた。 実験に魂を捧げてきた学者が見せる至情の笑みだった。決して人懐かしい笑顔ではなく、どちらかと言えば月影に照らされた能面の放つ、妙えなるひかりに似て光線を追いかける勢いで訪れた一陣の風に乗り、幽かな笛の音…

逃げ去る恋

フィルムノワール

タイムマシンにお願い〜3

仔細はまず相当なとまどいを隠しきれないという心理面からの推察、次に宿泊飲食に要する貨幣の問題、現行の通貨は過去では使用できないだろう。 残念ながら聖徳太子のお札は手もとになく、これから調達する間もない。急いで思いつき引き出しの奥から五百円紙…

ある殺し屋

サイレンス

タイムマシンにお願い〜2

「これが私の開発した丸出号です。一見普通の椅子に見えるでしょうが、そもそも時間軸を越えるのに仰々しい仕掛けなど必要ありません。こうしたシンプルな形状こそ最適と言えます。疑ってますね、心配入りませんよ、ここに腰掛けて催眠術なんてまやかしなど…

告白

陽だまり

タイムマシンにお願い〜1

真夜中お好み焼きを作ろうとして冷蔵庫を開けたら卵がなくて悲嘆にくれていたのだが、無性に腹が減ったので焼き飯にしようと考え直してみてもやはり卵がなくてはしょうがない。 そこでキャベツと紅ショウガだけのお好みに戻って、せめてソースだけはと、ウス…

土ころび

北風

花火~過ぎた夏

白ワインの冷たさは格別だった。 純一は三好からすすめられたビールをひとくち飲み干したあと、いつにない酔いが全身を巡ると云うよりも襲ってきて、体調を崩すか寝込んでしまいかねないと思い、それ以上は杯を重ねないまま、ぼちぼち打ち上がりはじまりだし…

胸騒ぎ

冬日和

モノリス

憂国忌に想う

今から43年前の今日、三島由紀夫は自衛隊市ヶ谷駐屯地にて、総監室を占拠、バルコニー上で演説を要求。直後、割腹自決を遂げた。 過激な政治的行動として、また暴挙として事件は一般に流布されている。 有名作家の壮絶な死は、各方面に尋常ならざる衝撃を…

天人五衰

幻惑されて

不断の満ち欠けを気に留めることもないまま、夜道に日は暮れないなどと、健気に、そして眠気を多少こらえているような心持ちで歩いている。 稜線は夜空に昔話しを語りたいのではなく、今日一日の想いがまた過ぎ去ることを自愛をこめて切々と訴えているように…

殉教

暁の寺