美の特攻隊

てのひら小説

2015-01-01から1年間の記事一覧

季節の記憶

今週のお題特別編「はてなブログ フォトコンテスト 2015夏」

青春怪談ぬま少女〜8

悦ばしき知識ですね。ミミズくん、きみのお陰だよ。「付随するもの」そうか、あれはすでに認識されたことだったんだ。ときおりよぎるランダムな語句を見捨ててはいけません。わたし自身見捨てられずにすみましたから。ともあれ、なかなか立派な革張りの二つ…

ひぐらしのなく頃に

青春怪談ぬま少女〜7

「花に嵐のたとえもあるさ、さよならだけが人生さ。だからよくお聞きなさい。もう会うことはないのだから。あんたが家へ向って歩き出し、途中で忘れものをした素振りでここに戻ろうともそれはあり得ないと言えば、どうかな。奇妙に聞こえるだろうか」なまず…

花の宴

青春怪談ぬま少女〜6

とりあえず客室になるのかな、なんか物置き部屋って呼んだほうがしっくりするようだけど、気遣いなのかひがみなのかわからなさに我ながら嫌気がさして、しきりに恐縮がっていたカエルおばさんの面持ちがまぶたの裏にしみこんだころにはもう意識は薄らいでい…

太陽がいっぱい

青春怪談ぬま少女〜5

水底はなるほど水底なのね。てくてく歩いたつもりでもときおり地に足が着いていないような、浮いた感じがする。そしてカエルおばさんの、「ほら見えてきたでしょう」この一声ですっきり背筋が伸びて眼球は遊泳しはじめた。たしかに建物が見えたわ、ぽつんと…

青春怪談ぬま少女〜4

時間はこれまでと同じでよどんでいたけど、ところどころ透明な感じが胸に入り込んできたから、ひどく沈滞しきっていなかったみたい。すでに水圧の作用なんか身体から離れているし、沼底は陸地と変わらない居心地に落ち着いていたわ。あくまで無心に近い場合…

想い出の夏

こどもの時間

青春怪談ぬま少女〜3

「もう立派な幽霊だよ」えっ、誰がつぶやいたの。独り言じゃないわ、たしかに耳もとへ届いた。優しく厳しくもあるような、それから不気味さがしっかりまとわりついている。仕方ないのよ、時間をとらえるのだってあやふやだし、おまけに記憶があちこち散らば…

GO

青春怪談ぬま少女〜2

見知らぬふたりはもう随分とまえからわたしのことを観察し続けているような思いがした。だって顔を見合わせるのと、わたしを見つめている時間が同じくらいで、そのうえ目の色はとても深く、くちもとは秘めごとを押し殺しているように感じられたから、まちが…

初夏

青春怪談ぬま少女〜1

みどろ沼、ここがわたしの住んでいる、あっ、ちょっと違うかな、でもいいか、他にも仲間がいるしね、とにかく毎日の意識が発生しているところです。順を追ってお話したいんだけど、どうにも前後不覚の切り貼りだらけで、意気消沈が長かったせいもあって、う…

playback

夢の愛

ことさらまえぶれなく閉ざされたドアの向こうへ手をかけたのは、薄らおぼえでしかない顔がほのかに浮遊していたからであり、その手つきに異論をとなえるような思いはひそんでいなかったにもかかわらず、水の流れにあらがえない穏やかな諦観が影となって寄り…

ラストダンス

つづれおり

もし私が感情表現を持ち合わせていなかったとすれば、当然ながら表現以前に接点さえあやふやだと考えてしまうところだが、果たしてそれは確かな解釈であるのだろうか。表現にとって感情は常に不可欠でなければならないと仮定してみると、喜怒哀楽がわき起こ…

幻灯機

ひめはぎ

うららかな春日和の過ぎゆきとは無縁だったのだろうか。やるせない午後の気色に身をまかせていると、階段を上る足音が聞こえてきた。遮光を願う意識には秘密がほの明るく灯されている。性急な心持ちがやんわり抑えつけられてしまいそうに弱々しく、か細い、…

昭和残響伝

空の青み

夢の窓をあけようとする手もとにまとわりついたのは、見知らぬ家を訪ねていると云う鼻白む遠慮にあらがう想いだった。読めない音符に見果てぬ旋律が運ばれ、虹彩には澄みきった情景が待ち受けていたから。遠い青空を卑近なまでにたぐり寄せるまなざしが、私…

一日

夏の日

【第7回】短編小説の集い 参加作品 生い茂った草が束になれば、緑のひかりを生み出し目にうるおいを、耳に涼風を届けてくれる。夏が終わり、喧噪がまぼろしであることを誇っていた様相に、どことなく慈しみを覚えてしまうのは、いかなる理由かなどと、のど…

ペルソナ

ペルソナ〜53(最終話)

夏木立の合間を縫って山間に点在する民家を眺めた両の目はまぶしさを一段と募らせて、澄んだ意識を保ちながら生い茂った雑草のうえに歩を休めた。真新しい空気を気持ちよく運んでくる涼風には、草いきれを浄化する瑞々しい効能が備わっているようで思わず鼻…

海を感じる時

ペルソナ〜52

純一がうつむき加減になるまで他にも色々と砂里は語りかけていたし、合間にはそれなりの受け答えをしたつもりであったが、己の影にすっぽり包みこまれてしまった切なさが募り、外界からの情報を取り込む意欲を喪失しているようであった。実りかけだした恋情…